12日閉幕のソフトボール世界選手権(千葉)に出場したボツワナ代表チームで、日本人女性コーチが奮闘した。アフリカ南部に位置する同国に、国際協力機構(JICA)の青年海外協力隊で赴任している中村藍子さん(39)。今大会は未勝利に終わったが、この反省を生かし、2020年東京オリンピック(五輪)出場を目指す。
0-22で敗れた8日のカナダ戦で、屈辱的なプレーがあった。ソフトボールでは許されていない離塁を、相手走者がわざと犯し、自らアウトになった。自国の攻撃がなかなか終わらなかったためだった。ボツワナ選手のほとんどが、どういう意味なのか理解していなかった。笑っている選手すらいた。明るい性格はいいが、中村さんは「これでは勝てない…」と、大きな課題を見据えた。
千葉県の八千代松陰高で全国ベスト8入りしたソフトボールの経験を、国際貢献に生かしたいと青年海外協力隊に応募し、昨年1月に赴任。男女ともに10チームずつトップチームがあるほどソフト人気が高いボツワナだが、日本のレベルとはほど遠かった。
1年目は自ら地方に出向き「出張指導」。中村さんが住んでいる首都ハボローネは都会だが、地方では水道がない学校などで教えることもあった。車で荒野を10時間以上かけて行くこともあった。
代表チームの練習も満足にできなかった。ボツワナソフト協会が約500円の日当が払えないとの理由から、今年2~4月の代表合宿が中止に。8月の世界選手権に間に合わないとの危機感から、5月からは首都付近に住むメンバーだけでも集まろうと、平日も含めて自主練習を行った。
ボツワナは産出高世界2位のダイヤモンド産業により、政府は潤っているというが、一般市民は必ずしもそうではない。代表チームのゴラマン・シックスペンス投手(26)は薬剤師の資格を持ちながら4年間、定職に就けていない。男女10ほどあるトップチームも、プロではない。代表が練習する国立球場も「国立」といいながら、観客席は100~200席程度だ。
中村さんは精神面から改善するため、球場のグラウンド整備を継続させてきた。東京五輪に出場できるのは欧州とアフリカで1チームのみだが、「可能性がある以上、挑戦しないわけにはいかない。しかし、今のままでは恥をかく。やれることはやりたい」。来年4月から始まる五輪予選に向け、最善の努力をする。
守備は連係プレー、カバリングを充実させる。打撃は現状、エンドランもスクイズも知らない状態といい「私の言葉だけでは伝わらない。もっとしっかりとした通訳を介して、実際に複数人でプレーを見せて理解させたい」と語った。
国内では野球をやる人もなく、「目で見て学ぶ環境もない」という。身体能力は高いため「作戦の知識を付ければ、脅威になれるかもしれない」。予選まで残り8カ月、やれる準備は全てやると意気込む。
ただ、青年海外協力隊の任期は通常2年で、来年1月が期限。JICA本部に延長を求めるが、受け入れられるかは不透明。「ボツワナ協会からは『帰さない』と言われている」と笑った。任期満了となっても、東京五輪予選に関わりたいという思いは強い。【三須一紀】
◆中村藍子(なかむら・あいこ)1979年(昭54)7月3日、千葉県佐倉市生まれ。八千代松陰高2年時に全国高校選抜ソフトボールでベスト8。日体大を経て実業団(大鵬薬品、ペヤング)でプレー。13年に引退。