開催中の全国高校野球選手権で公立の星、秋田県立金足(かなあし)農業が、超強豪校の横浜を5-4で撃破した。地元の秋田市金足地区では、劇的勝利に沸いた。夏の甲子園に初出場し、準決勝まで進んだ84年大会時、地元商店会の初代会長を務め、大応援団を率いた「サイクルはたさわ」の畑沢稔さん(83)が取材に応じ、当時と今大会を重ね合わせた。今回は第100回の記念大会。東北地方初の優勝を「地元選手だけ、おらが街の農業高校で!」と祈った。

 奥羽本線と男鹿線が乗り入れるJR追分駅の近くに、「サイクルはたさわ」はある。店の扉を開けると、畑沢さんらは甲子園中継の傍ら、84年大会のアルバムを引っ張り出し、思い出話にふけっていた。

 「今日はよくやった! 相手は横浜。8割方勝てないだろうと思っていた。本当にすごい」。畑沢さんは鳥肌を立てた。当然、次は金足農の最高成績に並ぶベスト4を期待。追分商店会の初代会長を務めていた当時を回顧した。

 1回戦はバス、2回戦以降は今はない臨時夜行列車で約300人の応援団を率いて甲子園入り。その時作った記念手ぬぐいを今でも大事に保管していた。少し黄ばんだ布が、流れた時を感じさせる。準決勝で2-3で敗れた相手は、2年生の桑田真澄、清原和博がいたPL学園。8回表まで2-1でリードしていたが、その裏、桑田に逆転2点本塁打を浴びた。ポール際の大飛球はファンの間で今でも「ファウルでは」と話題になるほど。甲子園にいた畑沢さんも「あれはファウルに見えたな」と語った。それほど、伝説の4強進出は鮮明に記憶している。

 夫婦ともに金足農が母校。妻桃枝さん(82)も「今日の勝利は誇りです。今でも母校が大好き。野球部をはじめ、みんな、しっかりあいさつをしてくれる」と笑った。野球部のあいさつは硬派に「押忍(おす)」だという。

 友人の水沢千穂子さん(72)は地元に愛される理由に、農業高だけに「野菜の直営販売」を挙げた。野菜(枝豆、大根、ほうれんそう、モロヘイヤ、キュウリなど)、卵、花、ジャムなどさまざまな農作物を「スーパーの7、8割の値段で売っている」と、地元住民に大人気だ。

 今日18日は、4強を懸けて近江(滋賀)と対戦する。畑沢さんは「小学生の頃、いつも高校に行って、高校生が世話してる畑で遊んだ。だから、おらが街の農業高校なんだっぺ」。地域に愛される高校。そして34年前の興奮がよみがえる。「地元の子だけで戦っている。秋田の誇り。なんとしても勝ち進んでほしい」。男鹿半島と日本海の風に吹かれて育った、カナノーナインが快挙を成し遂げると信じている。【三須一紀】