球団史上初のプロ野球セ・リーグ3連覇の達成が目前の広島カープ。V3と27年ぶりの本拠地胴上げを祈る人々がいる。7月の西日本豪雨で、経営するコイの養殖施設が浸水した広島県福山市の藤川秀樹さん(47)は子どものころからのカープファン。浸水した養殖池は被害が深刻で、いまだに日常が取り戻せない。復興の希望の支えはカープ。広島は21日、阪神に勝ちマジックナンバーを「3」とした。
なにもできなかった。西日本豪雨で藤川さんが経営する福山市の養魚場は水浸しになった。7月6日夜、広島県東部を流れる芦田川が増水し、危険を感じて友人宅に避難した。翌7日朝、帰宅した藤川さんは立ちつくした。
「辺り一面が浸水し、養魚池がなくなっていた。コイは逃げ、ろ過器と地下水をくみ上げるポンプは漏電して動かなくなっていた」。大小23ある池の21が浸水し、逃げたり、死んだりしたコイは約100匹。売買契約が成立していた約20万円のニシキゴイの品種「紅白」は数日後に死んだ。
豪雨の被害額は計約200万円。被害額よりもダメージが大きかったのは「水」だった。養魚場にとって水の質は命綱。数日間、地下水をくみ上げるポンプが使えず、汚水も流れ込んだ養魚池は、水質が変わった。生き延びたコイのエラに虫がつき、次々に死んだ。
「もう池はダメかも…」。打ちのめされる日々の中、カープが心の支えになった。子どものころから大ファンの藤川さんは自宅兼店の壁一面にタオルなどカープグッズを飾る。「豪雨の後にたくさん勝ってくれた。3連覇に突き進むカープの勝利が励みになった」。
金魚も扱う藤川さんは今月1日、福山市瀬戸町であったJA祭に田中広輔のユニホームのレプリカを着て金魚すくいの店を出した。店先には「優勝するぞ」「(いけすの中には)鯉も入ってる」などと書いた看板を掲げた。被災した人もいたが、カープの話題に笑顔がはじけた。
豪雨から約2カ月半。資金繰りが苦しく、仕入れができない状況だが、同業者から「がんばれ!」と約100匹のコイが運び込まれた。「まだ水ができていないが、少しずつでもいい。水質を上げていく」。逆境に耐えながらも、27年ぶりの本拠地胴上げへ、さあ、コイ!【松浦隆司】
◆広島カープの由来 原爆ドームの近くにある戦国大名の毛利氏が建てた広島城は「鯉城(りじょう)」とも呼ばれている。広島城がある一帯の昔の地名は「己斐浦(こいのうら)」。「己斐」が魚の「鯉(こい)」に変わって「鯉城」と呼ばれるようになった。「鯉」の英語は「カープ」で、広島カープの名前の由来となった。
◆広島県のコイ 国内のコイの養殖業者は新潟や広島などに500社前後あるとされる。原爆をテーマにした井伏鱒二の小説「黒い雨」では、被爆した主人公らが戦後の食糧難時代、貴重なたんぱく源としてクロゴイを養殖する様子が描かれた。最近は、アジアの富裕層からの観賞用として注文が多い。1匹として同じ模様のものはなく「泳ぐ宝石」と呼ばれ、品種、色合いによって値段が異なる。
◆西日本豪雨 気象庁は、数十年に1度の重大な災害が予想される場合に出す「大雨特別警報」を7月6日から8日にかけて九州から東海の11府県で発表。豪雨の死者は200人を大きく超え、平成に入って最悪の豪雨災害となった。広島県内の豪雨の死者は109人、行方不明者は5人。JR山陽線の三原~白市間をはじめ、芸備線、呉線、福塩線の線路が崖崩れなどにより寸断され、今も運休している。