ルノー、日産自動車、三菱自動車の会長として3社連合の要だったゴーン容疑者の逮捕を、識者はどう見たのか。自動車業界の経営、製品開発、最新情報技術(IT)など、多角的なリサーチを続ける佃モビリティ総研の佃義夫代表(70)に話を聞いた。

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ゴーン容疑者は05年からルノーのトップだった。ルノーは元々は公団で国営。今もフランス政府が大株主です。フランスのマクロン大統領が経済大臣だった当時、日産を吸収統合するという動きもあった。ルノーの連結決算は日産の業績で助かっている構図があり、フランスに日産の工場を作れば、雇用や経済の振興につながるからだ。

ただ、今年2月、ゴーン容疑者が22年まではルノーのトップを続けることが決まっており、6月にはゴーン容疑者が日産と三菱の完全子会社化の可能性を否定した。フランス政府も、一定の折り合いを付けた経緯がある。

フランスが仕掛けたと見る向きもあるが、あり得ない。マクロン大統領の日産合併の考えは、基本的に変わっていないとは思うが、逮捕には驚いた様子だった。フランス政府がゴーン容疑者を逮捕させて日産吸収を進めるとすれば、国際的な信用を失うからだ。

ゴーン容疑者による日産のV字回復は、まさに救世主の働きだった。しかし、近年は「コミットメント(目標必達)経営」に陰りが出ていた。燃費不正問題で経営悪化した三菱自動車を16年に傘下におさめ、3社の業績で世界2位となってはいたが、手腕の陰りは社内外から指摘されていた。

私も何度もインタビューしたが、ブラジル生まれのレバノン人で野望も強い。GMの社長になるのでは、ブラジル大統領になるのではとささやかれ、女性問題もあった。日産社内でも鬱積(うっせき)した不満はあった。昨年の日産の完成検査問題不祥事にゴーン容疑者は触れておらず、私の責任じゃないかのような様子だった。鬱積した不満が、内部告発という形になったのではないか。

ルノーのポストゴーンの人材次第では、統合の流れが強まる懸念はある。ただ、日産も残った人間で日産を守る姿勢を打ち出しており、3社連合のあり方が今すぐ一気に動くとは考えにくい。(聞き手・清水優)

◆3社連合 日産自動車は経営危機に陥って1999年にフランス自動車大手ルノーと資本提携し、2016年に三菱自動車を傘下に入れ、3社による企業連合を組んでいる。費用を減らして業務を効率化するため、部品調達や研究開発を共同で手掛けている。