冬の味覚の王者といえば、カニ。北陸3県では11月6日から漁が解禁となり、連日水揚げされている。中でも、今年張り切っているのが福井県だ。9月27日に越前ガニ(ズワイガニ)が、品質や評価の高い特産物を国が保護する、地理的表示(GI)保護制度に登録された。カニでは初めてという。北陸新幹線が2022年度末までに、同県敦賀市までの延伸が予定されているのも見越して、冬ならではの魅力を首都圏からの誘客に結び付けようとしている。
にび色のどんよりした空、北からの冷たい季節風、日本海の荒波。北陸が冬の景色に彩られると、越前ガニの漁期を迎え、福井・若狭湾沿岸の漁港は活気づく。
同県坂井市の三国港では、海沿いの魚問屋でカニをゆでる湯気が上がっていた。この時期ならではの風物詩。寒波の訪れが例年よりも3~4週間早く、しけ気味で出漁見合わせの日が多かった昨年に比べ、今年は順調に水揚げされているという。陳列ケースをのぞくと、2万円、2万1000円など、軒並み5ケタの値段がついている。まさにブランドガニだ。
越前ガニの歴史は古い。1511年、京都の公家の日記に越前のカニが水揚げされていたという記述がある。1909年(明42)には皇室に献上され、今でも続いている国内唯一のカニでもある。
県内の漁港から1~2時間の航程で、漁場に着く。水深200~400メートルで採取する。技術の向上で漁獲後、水揚げまで冷たい海水で生きたまま保管される。鮮度が良く、身もプリプリ。鮮度が落ちるのが速いカニミソも、濃厚な味を保たれている。
97年には全国に先駆け、黄色いタグを付け、ブランド化した。3年前には「極(きわみ)」という最上級ブランドも設定した。甲羅の幅14・5センチ以上、ツメの幅3センチ以上、重さ1・3キロ以上の基準を満たす極上品は、福井県によると全体の0・5%未満という。手のひらに乗せて伝わる重みが違い、ズシリと来る。昨年の初競りで46万円の最高値を記録したのも、納得だ。
そんな高級品が今年の解禁前、さらなる勲章を得た。地理的表示(GI)保護制度だ。「極」のタグだけでなく、GIのタグが爪の部分に付けられている。地域の財産を大切に扱う姿勢が評価された。
「先人たちの遺産を引き継ぎ、観光資源としてPRできる。国のお墨付きをもらった越前ガニは、冬の魅力と大きな看板になる」(福井県観光営業部)。
福井市でカニの販売をする「越前かに成前(なりぜん)」の田畑健太郎社長(39)は、こう力説する。「来年3月20日まで漁のできる越前ガニは、海水が冷たくなり、脂肪をたくわえる1~2月が最もおいしい時期。ぜひ、こちらに足を運んで本当の味を知ってもらいたい」。
まして、15年3月に開業した北陸新幹線が今後、敦賀まで伸びるとなれば、首都圏からの観光客の増加も見込める。「あの手この手で北陸に旅してもらえるよう、今から観光資源を掘り起こしたい」と、JR西日本も先を見越している。
全国47都道府県の魅力度ランキングで、福井県は昨年も今年も39位。石川県(10→11位)や富山県(23→22位)を大きく下回る。越前ガニは、福井の魅力度アップの起爆剤になる。【赤塚辰浩】
◆越前ガニ 福井県内の三国、越前、敦賀、小浜の4港に水揚げされる、ズワイガニのオス。メスは「セイコガニ」。石川県ではオスを「加能(かのう)ガニ」、メスは「香箱(こうばこ)ガニ」と呼ぶ。「松葉ガニ」は山陰地方でのズワイの別名。
◆地理的表示(GI)保護制度 地域固有の気候風土や伝統製法と結び付いた産品・食品の名称を知的財産として、農林水産省が保護する制度。15年12月、「あおもりカシス(青森県)」「但馬牛(兵庫県)」「夕張メロン(北海道)」など7品が最初に登録された。以降、「下関ふく(山口県)」なども名を連ね、今年9月の越前ガニまで全部で69産品が登録されている。