神奈川県内の東名高速道路でのあおり運転により夫婦が死亡した事故の裁判員裁判(深沢茂之裁判長)で、判決公判が14日、横浜地裁で行われ、石橋和歩被告(26)に懲役18年(求刑懲役23年)が言い渡された。争点となった「停車後の危険運転致死傷罪の適用」について、あおり運転全体と後続車の追突事故との因果関係が認められた。石橋被告は終始淡々とした様子で、公判を見届けた遺族に直接謝罪する場面は見られなかった。

開廷してまもなく、裁判長から「(判決前に)何か言いたいことは」と問われた石橋被告は、10秒ほどの沈黙の後、意味を測りかねるかのように少し首をひねり「ないと…」と一言。口は少し開き、表情に緊張した様子はなかった。

裁判長と裁判員が一時退廷後に、懲役18年の判決が言い渡された。石橋被告は棒立ちのまま大きな反応を示すことなく、上体を少し揺らしただけだった。初公判時と同じ上下黒いジャージーにメガネ、少しボサボサの髪にサンダル姿。右手にタオルを握りしめ、裁判長に促されると背を丸めて着席した。

裁判長は判決理由で「家族旅行の帰りに、突如生命を奪われた被害者の無念さは察するにあまりある。両親を1度に失った遺族の悲しみは深く、厳罰を求めるのも当然である」と厳しい言葉を並べた。また、石橋被告が公判では2度と運転しないことなどを述べつつも、事故後に余罪を含め3カ月間に4件の犯行を続けたことに「強い非難に値する。真摯(しんし)に反省しているとまでは評価できない」と断じた。

石橋被告は当初、淡々と聞いていたが、徐々に下を向いたり、耳をかき始めたり落ち着かない様子に。閉廷直前に、裁判長から「わかりましたか」と確認されると「はい」と小声で返事し、左手で口元を触った。

検察席の後方では、亡くなった萩山嘉久さん(当時45)の母文子さんらが見守ったが、石橋被告が文子さんや傍聴席に目を向けたり、謝罪などの意思を示すような場面は見られなかった。

裁判は、停車後でも危険運転致死傷罪が適用できるかが最大の争点だった。判決は、時速ゼロの状態が「重大な交通の危険を感じさせる速度」との検察側の解釈には無理があるとした上で、妨害運転から停車までの全体を一連の行為と捉えることで、後続車の追突による被害者らの死傷との「因果関係」を認定。法が規定していない態様でも、同罪が成立すると結論付けた。懲役23年の求刑に対し、同18年とした量刑理由については詳しくは触れなかった。【大井義明】