九州でひっそりと実施されているバレーボールのイベントが話題になっている。13日、福岡県宗像市で開幕した「益子直美カップ小学生バレーボール大会」だ。大きなルールは1つ。監督が怒らない。昨年はスポーツ界でパワハラ問題が吹き荒れたが、この大会は何かを予見していたのか今年で5年目になる。バレーボールに一線を引いていた益子直美さん(52)が、自分の名前を使って大会会長に就任したのには理由があった。

13日、都内では通称「春高バレー」こと全日本高校選手権が実施され、テレビ中継もされた。そんな中、全日本代表にもなった益子さんは、グローバルアリーナ体育館(宗像市)で約600人の子どもらに声援を送っていた。みんな笑顔だ。

自分の名前を冠したイベントで、福岡以外に山口、佐賀、長崎、大分、熊本、鹿児島からも参加するチームが駆け付ける盛況さだ。企業スポンサーもなく、益子さんもノーギャラだ。重視するのは勝ち負けではなく「子供らが楽しくのびのびとプレーする」ことで「監督は絶対に怒らない」を最大の決め事としている。

益子さん「選手には、もし、監督が怒ったら教えてね、と伝えてます。怒った監督は私が叱るんです」

この大会は5年前に始まった。「指導者に怒らせない」姿勢がSNSを中心に話題になり、2年前に神奈川・藤沢市でも同様のルールの大会が実施されるようになった。益子さんとは同い年でもある競泳背泳ぎの金メダリスト、鈴木大地スポーツ庁長官からも「先見の明があったね。機会があれば大会を視察したい」との言葉をもらっていた。

小学生のころの益子さんは何もスポーツをやっておらず「背の高いのがいやだった」が、中学生から始めたバレーボールで才能を開花させた。小手先ではないバレーボールをたたき込んでくれた当時の監督には感謝はしているが、怒鳴られるのが怖くて「どうしたら怒られないようにプレーできるか」ばかりを考えていたという。大人になっても素直にバレーボールを好きだとは思えなかったころもあった。

益子さん「小学生は楽しくバレーができればいい。私は引退してからバレーに関わりたくなかったけど、子どものプレーをみて心を動かされました。バレーの世界に戻れて、子どもみんなに感謝しています。今はバレーが好きといえる」

14日、大会は最終日。子どもらの中心には笑顔の益子さんがいるはずだ。【寺沢卓】

◆益子直美カップ小学生バレーボール大会 大会委員長の北川新二さんが2009年に小学生のバレーボールチームを結成したことがきっかけ。その年の夏に北川さんは9歳の長男と6歳の長女を水難事故で亡くした。当時園児だった長女がチーム入団を熱望していたこともあり、子どもらが楽しくできるバレーボールの大会を企画。高校時代の同級生が知り合いだった縁もあって益子さんと知り合う。大会に益子さんの名前使用に冠して快諾を得て、益子さんには大会会長に就任してもらった。