安倍晋三首相と麻生太郎財務相の地元の道路計画をめぐる「忖度(そんたく)」発言で追い込まれていた塚田一郎国交副大臣は5日、発言の責任を取り辞任した。

自身の判断としたが、事実上の更迭。政権のNGワードを得意げに連発する感覚に、全国で統一地方選を戦う自民陣営は激怒。今後の選挙への影響は必至で、盟友麻生氏に近い塚田氏をかばった首相は“火消し”優先に転換したが、判断の遅れで政権のイメージも悪化した。野党は塚田氏の議員辞職も求めている。

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「説明責任を果たし、職責をまっとうする」と話していた塚田氏が一転、辞任した。取材に「行政への信頼を損ね、国政の停滞を招いた」と説明。自民党でも辞任不可避の空気が拡大した4日のうちに所属する麻生派会長の麻生氏に辞意を伝え、麻生氏も了承した。

塚田氏は1日、福岡県知事選の候補者集会で、地元で「安倍・麻生道路」と呼ばれる下関北九州道路の計画に関し「首相や麻生氏は言えない。私は忖度(そんたく)します」「私は物わかりがいい。すぐ忖度します」と利益誘導を認めるような発言をし、調査計画が国直轄になったと、自分の手柄のように語った。

この日、一連の発言は「事実と異なる。雰囲気にのまれた。不適切だった」と釈明。忖度による辞任か問われると「違います」と語気を強めた。議員辞職は否定。後任は牧野京夫・元国交副大臣(60)が務める。

発言から4日。失言の深刻さや塚田氏のひどい言い逃れでも進退問題にならなかったのは、首相による盟友麻生氏への配慮があったとみられる。桜田義孝五輪相ら失言大臣も辞任させておらず、「強行突破」をはかろうとした節もある。

しかし統一地方選の前半戦は7日に投開票で、後半戦も21日投開票。7月には参院選もある。自民党本部には全国の陣営から抗議が相次ぎ、「選挙活動にならない」の嘆きもあった。テレビは連日塚田氏発言を報じ、モリカケで問題になった「政権と忖度」が、再び直結。首相は盟友への気遣いどころではなく、現実的対応に迫られた。

昨年、不適切なやじで辞任した副大臣もおり、「忖度」連発でも塚田氏が続投なら、党の不満もさらに拡大する。首相は5日、「雰囲気がどうあれ、政治家が語る言葉は真実でなければならない」と述べたが、判断は後手に回った。麻生氏は会見で「別に頼んでいない。道路計画が副大臣の忖度くらいで決まることはない」と述べたが、予算計上に政治的判断は本当になかったのか。「亥(い)年選挙」を前に、深刻なスキャンダルが安倍政権にのしかかった。【中山知子】