テクノユニット「電気グルーヴ」メンバーで俳優のピエール瀧被告(52)が、コカインを使用したとして逮捕、起訴されたことを受けて、ソニー・ミュージックレーベルズが逮捕翌日の3月13日に音源・映像の出荷停止、在庫回収、配信停止を行ったことに抗議し、署名活動を行った発起人、賛同人が15日、都内の文部科学省で会見を開いた。署名を求めるキャンペーンは、インターネット上で3月15日に開始し、27日間で79カ国、6万4606人の賛同を得たという。

発起人で社会学者の永田夏来氏は、音源と映像の出荷停止、在庫回収、配信停止の問題として、「作品を聴く自由をリスナーから奪っている。作り手だけでなく受け手の財産でもある」と主張。「瀧さんの回復を妨げる。また薬物を買うだろうと収入を断つより、確実な回復の道を探る方がはるかに効果的」「誰のためにもならない安易な方策」と指摘した。

同じく発起人で音楽研究家のかがりはるき氏は、電気グルーヴの作品が高額で転売されていると指摘し「現在、不適切と言える非常に高い額で転売されている。定額配信で聴けないのもリスナーにとって問題」と指摘した。

賛同人でバンド「ヒカシュー」リーダーの巻上公一は「いろいろなレコード会社のしがらみがあり、来にくい人はたくさんいるけど、しがらみがないのでここに来た」と、ミュージシャンが今回の署名活動に賛同していても、所属事務所、レコード会社に気を使い、声を上げにくい現状を指摘。「自分のことだから、もっと分かって欲しい。(道路の)一時停止違反で回収されることも、これからあるかもしれない。良い機会なので事務所、レコード会社ではなく、自分の意見として言える人になって欲しい。悲しい」とミュージシャンにも訴えかけた。

賛同人でヒップホップミュージシャンのダースレイダーは、エリック・クラプトンやポール・マッカートニー、ホイットニー・ヒューストンら世界的なミュージシャンも薬物で問題を起こしながら、音源などはレコードレーベルによって回収などされていないと指摘。その上で「ソニーの行動を糾弾するのではなく、なぜ出荷停止の判断をしてしまう社会を生んでしまったかを考えないといけない。薬物系の不祥事を犯した人の作品が売られている社会と、そうでない社会を考えるべき」と強調。「僕たちは残念ながら抹殺する方に大勢が加担するのを、変える選択肢を提案し、選択肢のカードを乗せるのが署名活動の意味」と、ソニー・ミュージックレーベルへの批判にとどまらず、社会の風潮を変える必要性を訴えるのが活動の糸田と説明した。

賛同人で社会学者の宮台真司氏は「今回の措置は、日本しかない特殊なもの。何も考えていない事なかれ主義に座している証拠」とソニー・ミュージックレーベルの対応を批判する一方、日本のミュージシャンに対しても「歌手がレーベルを忖度(そんたく)して署名に賛同してくださらなかったのも日本特有」と批判した。その上で「宗教が社会より大きいのと同じように、表現は法よりも大きい、法に収まらない表現。表出させるのが芸能、芸術で、法より寛容でなければいけない、というのが考え方」と主張した。

5人は同日午前、都内のソニー・ミュージックレーベルに署名を提出しに行き、受け取ってはもらえたが、明確なリアクションはなかったという。永田氏は「署名はお渡ししましたが、名刺交換にも応じてもらえず、お名前、肩書を口答で紹介いただいた。受け取りました、ということだけだったと思います」、かがり氏は「時間として3分ほどです」と報告した。

その後、補足した宮台氏は「質問は封殺されました。『なしで、ということで』と。よほど自信がないんでしょうね。だらしない印象を受けました。至当な理由があれば、とうとうと語ればいいのに…」と不満を訴えた。

ソニー・ミュージックレーベルには、6月1日をメドに何らかの回答を欲しいと伝えたという。永田氏は「日本全体の中で何とかしたい、いろいろ考えたいというコンセンサスが出来ていると考えている。それが6万人という数字に表れた。次に求めるのは具体的な動き。ファンとして活動しているが、作り手とファンが共有する作品として考えたい。ミュージシャンの人にも、もっと声を上げてもらえるといい」と語った。【村上幸将】