東京・池袋の都道で4月19日、乗用車が暴走した事故で、妻の松永真菜さん(31)と長女莉子ちゃん(3)を亡くした男性が3日、家族で訪れていたという現場近くの南池袋公園で署名活動を行った。警視庁は、車を運転していた旧通産省工業技術院の飯塚幸三・元院長(88)を自動車運転処罰法違反容疑で書類送検する方針だが、男性は元院長への厳罰を求めて、7月中旬にブログを立ち上げて署名を求め始めた。

この日までに、郵送だけで5万筆超の署名が集まっていたが、3日午前10時から午後4時まで行った署名活動には1万5000人以上の人が足を運び、行列が途切れることはなかった。事故から4カ月が経過しようとしている中、これほど多くの人が集まったことに、男性は「いろいろな方々が来てくれて、心を寄せてくださって感謝の念しかない。九州から来てくださった方もいた」と感謝した。会話を交わす中で、泣きだす女性もいた。男性は「お子さんをお連れの方は『人ごととは思えなかった』と言ってくださった」と振り返った。

男性は、亡くなった妻子が署名活動をどのように見てくれているだろうか? と聞かれると「妻と娘の生前、僕は優柔不断な男でしたけど、僕がやると決めたことは何も反対せず『やりたいようにやった方が良いよ』と言ってくれた。見守ってくれていると思う」と口にした後、唇を震わせ、声を詰まらせた。そして「ただ…正直、葛藤はあった。ありましたよ。娘の遺体の損傷がひどく、お別れのあいさつもできなかった…」と言い、涙した。

その上で「でも、前例として、罪が軽いというのは起きちゃいけない。再発防止になると思ったので、署名活動を始めました」と毅然(きぜん)と前を向いた。そして「葛藤は乗り越えた…でも、悲しみは乗り越えることはできない。乗り越えるのではなく、後ろ向きではなく、前向きに抱えて、大事に生きていく。それが、2人の望んでいることだと思うようになった」と固く誓った。

署名活動は8月末まで行う予定で、18日には真菜さんの地元沖縄でも署名活動が行われる予定。関係者は、8月下旬に設定した期限までに署名は10万筆近くに上る可能性があるとの見通しを示した。署名は、飯塚元院長が書類送検されたタイミングで東京地検に提出する予定だ。

また、豊島区が事故を風化させないために、慰霊碑を事故現場の交差点前の区立日出町第二公園に設置すると発表した、慰霊碑建立のための募金活動も合わせて行われ、こちらも約1500人が募金した。関係者は「募金の趣意書を兼ねたちらしだけで1300枚ほど配ったが、足りなくなって配れない時もあった。若い方の募金が多く、中には1人で4万円を募金した人もいた。概算で160万円から200万円くらいは集まったのではないでしょうか」と説明した。

母子が犠牲となった痛ましい事故から4カ月。現場の交差点には、いまだ花や飲み物が手向けられており、現場に向かって手を合わせて涙する男性もいた。悲しみは、全く風化していない。【村上幸将】