いつもの「くさいものにはフタ」作戦-。安倍晋三首相は13日、「私物化」が問題視されている「桜を見る会」を、自らの判断で来年は中止すると発表した。

公的行事であるはずの会を組み込んだ、私的な後援会の旅行ツアーなど「私物化」の物的証拠が続々と表面化。敗色濃厚とみるや突然逃げる手法は、2閣僚の更迭や大学入試の英語民間試験延期と同じ。1952年(昭27)から毎年続いてきた歴史ある会を中止に追い込んだ首相の責任は重い。

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来年の「桜を見る会」の中止は13日、菅義偉官房長官が会見で突然発表した。「招待基準の明確化やプロセスの透明化を検討し、予算や招待人数を含めて全般的な見直しを行う」と述べたが、招待基準の明確化やプロセスの透明化に疑義が生じていることの証左だ。野党の追及もあり、首相の「私物化」を示す不都合な疑惑が次々と表面化。「本丸(首相)直撃」をかわすには、中止しかなかった。

会の主催は首相で国の公的行事だが、首相の地元後援会関係者が今年、800人以上招待されたことが判明。政府側は「各省庁の意見を踏まえ、功績があった方を幅広く招待する」立場だが、内閣官房の担当者は13日の野党ヒアリングで、首相の事務所から、招待者の推薦を受けたことを認めた。基準に合った人物を招待したか、確認作業をしたとは答えなかった。

首相以外でも、複数の自民党議員が後援会関係者を招待し、旧民主党政権でも議員の「推薦枠」があったことが判明。政府側は来場者に本人確認も行わず、本来の趣旨とかけ離れた「やりたい放題」の人選が横行していた。

公的行事に800人を超える後援者を招待した首相側の手法は、公私混同の疑惑が今もくすぶる「モリカケ問題」と重なり、野党は追及を強めている。その矢先の中止決定。追い込まれた首相は官邸を出る際に「私の判断で中止することとしました」と述べたが、混乱への謝罪はなかった。

情勢が不利と見るや「ちゃぶ台返し」する手法は、最近の安倍政権で頻発している。「政治とカネ」が浮上した菅原一秀、河井克行両氏は、野党の追及が予定された委員会の開催直前に大臣を更迭された。今も説明はしていない。英語民間試験導入延期も、側近の萩生田光一文科相の「身の丈発言」への批判拡大を封じるため。逃げの印象しか残さなくなってきた首相は来週、在任日数が歴代1位となる。その器にふさわしく、説明責任を果たそうとする様子は、まだみえない。【中山知子】

◆桜を見る会とは 「観桜(かんおう)会」と呼ばれた皇室主催による前身の催しを復活させる形で、吉田茂首相が1952年(昭27)に始めた。場所は現在と同じ新宿御苑。阪神淡路大震災や東日本大震災、北朝鮮による弾道ミサイル発射など有事をのぞき、毎年4月に開催している。

今年の開催要領によると、招待枠は1万人。たる酒や食事が無料で振る舞われる。往年の自民党政権では、皇族や各国大使、名実ともに各界の代表者ら「厳選された招待者」(関係者)が集い、出席者も10年の鳩山政権までは、8000人~1万1000人程度だが、第2次安倍政権発足後の14年以降、費用も招待者数も増加し、今年は1万8200人。芸能人の多さも特徴で、首相との写真撮影が恒例行事。「芸能人を見る会」との皮肉も出ていた。

今回の問題は先月13日付で、「しんぶん赤旗日曜版」が、首相後援会関係者が数百人規模で招待されている疑惑を大きく報道。さらに今月8日、共産党の田村智子参院議員が参院予算委員会で詳細に指摘し、問題が拡大。首相は「主催者としてのあいさつや招待者の接遇は行うが、招待客のとりまとめなどには関与していない」と否定していた。