11日に亡くなった野村克也さんは、かつて政権を失った自民党に「やっぱり、負ける時は負けるべくして負けるんです」と、野党転落の原因を語ったことがある。長く政権政党だった自民党と、常勝球団・巨人を重ねて「おごりがあった」とも分析。「再生工場」と呼ばれた自身の経験談を踏まえ、政権復帰への道のりを指南した。その2年後、政権を奪還した自民党は今、長期政権のおごりが指摘される。ノムさんの直言は生きているのだろうか。

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野村さんは10年1月24日、自民党大会にゲストで招かれ、スピーチを行った。当時、自民党は野党。09年衆院選で民主党(当時)に政権を奪われた後、初の党大会で、政権奪還への一致結束が最大の課題だった。

講演のテーマも「全員野球」。当時を知る関係者によると、野村さんは、妻沙知代さんを通じて二階俊博幹事長と親交があり、その縁もあり白羽の矢が立ったようだ。人材の効果的活用で弱小チームを再建し「再生工場」と呼ばれた手腕に、期待が寄せられた。

大拍手に迎えられ、壇上に立った野村さん。「場違いな場所に来てしまった。逃げて帰りたい」といきなりボヤいて爆笑を誘ったが、すぐに核心に入った。

「昨年皆さん、負けたんですよね」「やっぱり負ける時は負けるべくして負けるんです」と語りかけた。

「私は常に『勝ちに不思議の勝ちあり 負けに不思議の負けなし』と言い続けている。勝負の世界もそうですが、私たちは負けて反省はするが、勝った時の反省はあまりしない。そこに皆さんの落とし穴があるのではないか」と、切り込んだ。長年の政権政党に慣れ、真摯(しんし)な反省が足りなかったと分析した。

また「おそらく皆さんは(常勝)巨人の心境でおられたと思うが、上に立てば足を引っ張る人がいる」と指摘。「結束して足を引っ張りに来ることを忘れず、捲土(けんど)重来、頑張ってください」と述べ、予定より短めに話を結んだ。

講演後の取材にも「巨人と自民党はつながるのではないか。ちょっとおごりがあったのでは、という思いがする」と指摘。「国民にいいおきゅうをすえられたととらえ、もう1度立ち直ってもらえれば」と、勝負師らしくアドバイスした。

野村さんの退席後、あいさつした当時の党総裁、谷垣禎一氏は「一部の人が権力を握ったり、内部の権力闘争に明け暮れた自民党とはきっぱり決別する」と強調。「どうかお支えください」と目を潤ませた。その後、自民党は12年末に政権を奪還。ただ、それから続く安倍政権には、長期政権ならではの「おごり」「緩み」が指摘されている。

野村さんは、こうも言った。「負けた場合は当然、敗因がある。弱いチームが強いチームを倒す時、まともにいっても勝てやしない。相手の弱点を具体的に見つけ、徹底的に攻めるのが、弱者の戦術の基本だ」。自民党に政権を奪われた後、攻めあぐねる今の野党にも、通じる分析だ。

10年前のノムさんの言葉の数々。今の永田町に聞かせたい「金言」の宝庫でもあった。【中山知子】