幻となったラグビーワールドカップ(W杯)の一戦が、今年10月下旬から11月上旬に復活する可能性が高まった。

昨年9月、岩手・釜石市の釜石鵜住居(うのすまい)復興スタジアムで、ラグビーW杯予選リーグの第1戦に沸いたが、10月の同第2戦「ナミビア対カナダ」は台風19号直撃で中止となった。地元は失われた夢の戦い実現へ向け、一丸となってスクラムを組む。

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釜石の夢は終わらない。東日本大震災の津波被害からの復興、ラグビーW杯開催という夢をつかんだ釜石が、またも自然の猛威によって奪われた「ドリームマッチ」を取り戻す。

釜石市や同市ラグビーW杯推進本部は1周年記念事業として中止となった「ナミビア対カナダ」のメモリアルマッチ開催へ向けて動きだした。前座マッチ、無料のファンゾーン開設など大会概要を取りまとめ、ラグビーW杯の組織委員会も、この計画を後押ししている。

市では、すでに2020年度の当初予算案を発表し、1周年記念事業の経費5063万円を計上。「何とかして実現させたい」と同市ラグビーW杯推進本部の正木隆司総括部長は期待感をにじませる。一方で交渉にあたる関係者は「前向きに進んでいます。手応えを感じている」と、夢が現実味を帯びて来たことを明かした。

昨年9月25日、同スタジアムで開催されたラグビーW杯予選プール「フィジー対ウルグアイ」は、1万4025人の観客で沸いた。だが、さらなる夢と希望と活力を呼ぶはずだった10月13日の第2戦は台風19号による土砂災害の危険などから中止。津波で壊滅した町は、がれきの山から再起してラグビーW杯の夢をつかんだ。それもつかの間、また自然の試練に見舞われた。

ラグビーの町はラグビーから学び続ける。転んでも転んでも立ち上がれ-。中止の朝早くからカナダ選手たちは、ボールをスコップに持ち替えて汚泥の清掃作業に汗した。お菓子を買い求め、子どもたちに手渡す選手もいた。ドリームマッチのキックオフは小さな町のラグビーへの感謝の証でもある。

復興五輪の足音が近づいてきた。被災した岩手、宮城、福島の東北3県で岩手は唯一、五輪競技が開催されない。だが、ラグビーがある。東京オリンピック(五輪)パラリンピック後に、1年遅れのラグビーW杯が、帰って来る。【大上悟】

◆釜石市の現状 東日本大震災による死者912人、行方不明者152人。岩手県では陸前高田市の1602人に次ぐ被害となった。津波による浸水面積は約738ヘクタール(東京ドーム約157個分)で住宅1万6182棟のうち、4704棟が被災。仮設住宅の入居数はピーク時に2845世帯だったが、今年2月末時点で41世帯に減少した。人口は震災時の3万9464人から今年2月末の時点で3万2821人となっている。