安倍晋三首相は1日の参院決算委員会で、新型コロナウイルス特措法に基づく緊急事態宣言の発令に関する判断をめぐり「最悪を想定し、既にさまざまな可能性などについて準備を進めている」と述べた。即時の宣言発令は否定した。一方、東京都内の感染拡大を踏まえ、国に早期の宣言発令を求めてきた日本医師会は、国より先に「医療危機的状況」を宣言。医療現場の切迫した実態を訴えた。東京都ではこの日、新たに66人の感染を確認。若年層の割合が増加している。

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感染拡大防止対策として、マスク着用で国会審議に臨んだ首相。緊急事態宣言の発令には、依然慎重だった。宣言前の国会への事前報告の手続きについて「宣言を出すというのは、相当厳しい状況で、スピード感も必要ということも理解いただきたい」と主張。「今この時点で、宣言を出す状況ではない」とも述べた。一方、都内で爆発的感染が起きた場合の対応に関して「最悪を想定し、既にさまざまな可能性などについて準備を進めている」と、水面下の準備はうかがわせた。

緊急事態宣言が出た場合、海外のような外出禁止などの強制的措置に対する不安が、国民の間にはある。首相は「フランスのようなロックダウン(都市封鎖)ができるのかといえば、それはできない」と述べ、日本の法律上、強制力は弱いとの認識を表明。事実関係の浸透をはかった。

緊急事態宣言はまだ出さない構えの首相だが、絶対的に供給力が不足するマスクについては、再利用が可能な布製を「1住所当たり2枚ずつ」配布すると表明。再来週以降、感染者が多い地域から配布する。

一方、再三、国に緊急事態宣言発令を求めてきた日本医師会はこの日、慎重な政府に先んじる形で、独自の「宣言」に踏み切った。

横倉義武会長は会見し、現在の国内感染実態は、医療現場に危機的状況を招いているとして、「医療危機的状況」を宣言。一部ではすでに病床不足が始まり「医療現場としては、危機的状況宣言をしてもいいのではないか」と訴えた。「感染爆発が起きてからでは遅い。今のうちに対策を講じておくべき」と、強い危機感を示した。

実際、日本で“医療崩壊”が始まりつつあることは、この日の政府の専門家会議でも指摘された。会議後の会見で、東京、神奈川、愛知、大阪、兵庫の5都府県は「医療体制が切迫し、今日、明日にでも抜本的な対策を講じる必要がある」と指摘された。脇田■字座長(国立感染症研究所長)は、感染経路が不明な感染者が拡大する東京と大阪は、「感染拡大警戒地域」という認識を表明。クラスター(感染者の集団)も頻繁に見つかっているとして「医療現場が機能不全に陥ることが予想される」とも述べた。専門家会議の分析は、政府の危機感を少なからず深める可能性もある。※■は隆の生の上に一

【世界のロックダウンの例】

■中国・武漢 道路、鉄道、空港などすべての交通網を1月23日に閉鎖し、都市全体を完全に封鎖した。

■イタリア 全土で不要不急の外出禁止。外出は基本1人で、申告書を携帯する。違反は罰金。食料品や薬局などを除くすべての商店や施設が営業停止。スーパーなどでは人との距離を保つ「ソーシャルディスタンス」を守るため、列ができている。ほか欧米各国でも基本イタリア同様の対応が多い。

■フランス 生活必需品の買い物や通院などを除き、自宅待機。やむなく外出の場合は申告書を携帯。違反には罰則があり、累犯は罰金約44万円。健康維持の運動は1人で、自宅から1キロ以内などで認められる。

■ドイツ 出歩く時は基本1人。公共の場で基本3人以上集まるのは禁止。飲食店は、配達や持ち帰りは可。人と人の距離を1・5メートル空ける。

■英国 必需品の買い物、通院、必要な通勤など以外は外出禁止。違反は罰金約4000円。ほぼすべての飲食店、施設などは閉鎖。

■米国 連邦政府が非常事態宣言を出し、全50州のうち20州以上で不要不急の外出が原則、禁止。内容は各州で異なり、ニューヨーク州は原則、州内の企業の全従業員を在宅勤務とした。サンフランシスコなどカリフォルニア州では屋内退避令が出され、銀行、ガソリンスタンドなども営業中。ゴミ収集も行われ、ペットの散歩などはできる。