新型コロナウイルスが世界を震撼(しんかん)させている。国内でも感染者が増加傾向にあるが、岩手県は47都道府県で唯一感染者ゼロ(12日現在)を続けている。日刊スポーツの記者が12日、県庁所在地の盛岡市内を歩いた。この日は同市内のつなぎ多目的運動場でサッカー天皇杯県予選準決勝(富士大-日本製鉄釜石)が実施予定も一転延期に。ところが、その場所ではサッカーを楽しむ人たちの姿があった。【取材・構成=山田愛斗】

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盛岡駅からバスに乗り、多目的運動場へと向かった。所要時間は35分。最寄りのバス停を降りると、すぐ目の前には御所湖と人工芝グラウンドが広がっていた。大自然に囲まれたその地では、この日の午後2時から富士大と日本製鉄釜石の両チームが、J3いわてグルージャ盛岡の待つ同決勝への挑戦権をかけて戦うはずだった。しかし、同準決勝が延期になり今後は中止も含め再検討される。

代わりにプレーしていたのは少年や青年のクラブチームで、数時間ごとに入れ替わりながら試合が行われていた。施設は盛岡市が所有し、14年4月にオープン。3月中は同市が使用自粛を呼び掛け、高校生以下に利用制限を設けていたが、4月からの教育活動再開を受け制限が解除された。

同準決勝の延期決定は2日前の10日。キックオフ時刻だった12日の午後2時も含め、午前9時から午後9時までの利用可能時間の予約はいっぱいだという。施設関係者によると「延期決定からすぐに予約の問い合わせがありました」と即日に埋まったことを明かした。

多目的運動場から20分ほど歩くと「盛岡の奥座敷」と親しまれるつなぎ温泉に到着した。御所湖周辺には歴史のある宿泊施設が点在。無料で楽しめる足湯もあり、日帰り入浴できる場所も。しかし、日曜日にもかかわらずあたりは閑散としていて、新型コロナの影響で無期限休館を知らせる場所もあった。

ある宿泊施設関係者は「毎日、キャンセル処理ばかりしています。この先の予約もほぼゼロで、まさに大打撃です」。7日に緊急事態宣言が発令された7都府県(東京、神奈川、千葉、埼玉、大阪、兵庫、福岡)から感染者が少ない地域へと脱出する「コロナ疎開」が問題視されているが「東北以南からのお客さまはキャンセルされる。いらっしゃるのは県内や東北他県からです」と否定する。例年は花見シーズンやゴールデンウイークの予約が取りづらいつなぎ温泉。県内感染者ゼロでも苦しい状況が続いている。

盛岡市中心部に戻ると他県と同様に出歩いている人のほとんどがマスク着用だ。それでも人出は多くない。100近くの加盟店からなる大通商店街は多くの店でシャッターが下り、臨時休業や自粛を知らせる飲食店、営業時間を短縮するカラオケ店や証券会社の看板が目立った。マスクを求め、人の出入りが激しいドラッグストアでは、トラブル防止や転売対策、朝早く来店できない人への配慮で不定期にマスクや除菌シートなどを陳列する店舗も。また、パチンコ店は数えるほどしか来店者がいなかった。

桜満開までにはもう少し時間がかかりそうだ。盛岡地方裁判所前で巨大な岩を割って伸びる国の天然記念物、石割桜はピンクの花が徐々に咲き始めていた。

岩手県の達増拓也知事(55)は8日の新型コロナ対策会議で「県民の皆様には緊急事態宣言の趣旨を踏まえ、感染拡大防止の効果が最大限発揮されるよう、緊急事態措置が発令された地域との不要不急の往来を控えていただくようお願いします」と要請。感染者ゼロを続けるために県民一丸で見えないウイルスと闘う。

○…東北新幹線の利用者は大幅に減少している。午前10時前後の盛岡駅は閑散としていた。同9時50分発の東京行き「はやぶさ・こまち」は、東京駅到着時刻が午後0時4分で通常の日曜日なら利用ニーズが高い列車。しかし、1両あたりの乗客は数人あるいはゼロと極端に少なかった。岩手県交通(国際興業、JRバス東北含む)は、盛岡~東京など県内各地域と東京を結ぶ4路線の夜行バスを運行していたが全線運休している。一方、岩手県北バス(フジエクスプレス含む)は久慈・盛岡~東京など現在4路線を運行中だが、16~29日に3路線を運休する。八戸(青森)・盛岡~新宿(東京)・川崎(神奈川)の1便だけは「地域インフラを支える公共交通事業者としての使命」として継続運行する。

◆15年の国勢調査によると岩手の1平方キロメートルあたりの人口密度は83・8人で国内2番目に少ない。一方、東京は最も多い6168・7人。また岩手の面積は東京、神奈川、千葉、埼玉を合わせたよりも広く国内2番目だ。