ジャーナリストの伊藤詩織さん(31)が8日、都内で会見を開き、15年4月に元TBSワシントン支局長の山口敬之氏(54)から性的暴行を受けたと17年に実名を公表して明らかにした後、漫画家A氏を含む3人からインターネット上で事実に基づかない誹謗(ひぼう)中傷の投稿で精神的苦痛を受けたとして、東京地裁に損害賠償などを請求する訴訟を起こしたことを明らかにした。8日午前、訴状を東京地方裁判所民事部に提出した。

訴状によると、A氏はツイッターで17年6月、自らの写真と伊藤さんの写真を並べて、精神疾患患者は瞳孔が収縮傾向にあるなどとツイート。さらに18年2月には、伊藤さんが性的な関係を築くことで就職をあっせんしてもらおうと「枕営業」を仕掛けたのに、山口氏が自由恋愛と勘違いしたと理解、などとツイート。さらに同月には漫画を投稿。その中で「枕営業大失敗!!」との文言とともに、「山口」と書かれたTシャツを着た、髪形や目の大きさなどが伊藤さんに酷似した女性と、伊藤さんの17年の著書「Black Box」をもじったと思われる「CLAP BOX」なる書を手にした男性を描いた。

さらにA氏は、伊藤さんが、山口氏から性的暴行を受けたとして1100万円の損害賠償を求めて起こした民事訴訟の判決で、東京地裁が同氏に330万円を支払うよう命じた判決が出た翌日の19年12月19日に、自身が書いた一連の風刺画はフィクションであり、地裁判決を受けて削除する意向はない旨のツイートをした。さらに同月には「お! 尻勝訴ー!!」などの文言とともに、伊藤さんを想起させる女性や裁判官、報道陣らを漫画に描いた。

B氏は、A氏が18年2月に投稿した漫画をリツイートした。C氏は、A氏が19年12月19日に投稿した、同氏が書いた一連の風刺画はフィクションであるなどとした投稿をリツイートした。

伊藤さんは、A氏の5件のツイートは性被害に続く二次被害、セカンドレイプというべき深刻なものである上、同氏がツイートするにあたって事実関係を調べていないとし、1ツイートごとに100万円、合計500万円の慰謝料と弁護士費用50万円を求めた。さらに、同氏が誹謗(ひぼう)中傷にあたるツイートの投稿、削除を繰り返し、今後も同様の行為を繰り返す可能性が高いことから、当該ツイートを削除した上で、ツイッター上に謝罪広告を掲載することも求めた。またB氏、C氏には、それぞれ慰謝料100万円と弁護士費用10万円、リツイートの削除を求めた。

伊藤さんは、16年7月の刑事裁判で山口氏が嫌疑不十分で不起訴処分とされ、翌17年9月の検察審査会でも不起訴相当とされたことを受け、同年9月に山口氏を相手に民事裁判を起こした。19年12月18日の判決で、東京地裁は「虚偽の申告をする動機がない」と主張を認め、著書の出版も、自らの体験を公表し社会で議論されることで性犯罪被害者を取り巻く法的、社会的状況の改善につながる公益目的だと評価した。

一方、山口氏の行為について地裁は「酩酊(めいてい)状態で意識がなくなった伊藤さんに意思に反して性交渉を行った」と認定。著書で名誉を傷つけられたと1億3000万円の損害賠償を求めた反訴も棄却し、伊藤さんが勝訴した。山口氏は20年1月6日に、決定を不服として東京高裁に控訴した。