新珠三千代さん71歳心不全で死去ドラマ「細うで繁盛記」や映画「人間の条件」などで知られる女優新珠三千代さん(あらたま・みちよ、本名・戸田馨子=とだ・きょうこ)が17日午後8時35分、心不全で死去していたことが22日、分かった。71歳だった。今月10日、下半身の痛みを訴え入院、腰椎椎間板(ようついついかんばん)ヘルニアの手術を受けた後、意識が戻らなかった。葬儀・告別式は故人の遺志で21日に近親者だけで済ませた。新珠さんは宝塚歌劇団娘役を経て映画デビュー。清そなイメージながら、多彩な役をこなす名女優だった。ヘルニア手術もともと腰痛で苦しんでいた新珠さんは今月10日、腰椎椎間板ヘルニアのために入院した。手術を受けた後に意識が戻らず、治療を受けていたが、17日に心不全で死去した。最期は兄弟たちだけに見守られ、眠るように息を引き取った。「葬儀は身内だけで」と遺言を残しており、近親者だけで21日に密葬を済ませた。新珠さんは1994年(平成6年)12月、舞台「女たちの忠臣蔵」に出演中、虚血性心筋症で緊急入院した。心筋症のほかに合併症も併発、一時は意識不明にも陥った。3カ月の長期入院で、それまで舞台に穴をあけたことがなかった新珠さんは、ショックを受けていたという。それ以来、大きな仕事は引き受けず、自宅にいる時間が増えた。所属事務所の蓮沼千達(ちさと)東宝芸能副社長は「責任感の強い人だったので、舞台降板が忘れられなかったようです。元気になったのですが、舞台には戻れなかったようです」と話した。 それでも、単発の仕事は続け、昨年11月には東京・銀座で朗読の舞台に立った。外国小説「ハロルドとモード」を朗読し、盛況だった。蓮沼氏は「会場まではつえをついて来るのですが、舞台に上がるとピシッと背筋が伸びるんです。女優魂を感じました」と振り返る。盛況に気をよくした新珠さんは「心と体の自信が戻ったら、ファンの皆さんに恩返ししたい」と舞台復帰を希望していたという。だが、腰の具合は悪く、毎年2月に開催される東宝女優らの懇親会には、今年に限って欠席した。 新珠さんは45年(昭和20年)に宝塚歌劇団に入団。娘役スターとして活躍し、有馬稲子、八千草薫とともに「3人娘」と呼ばれた。その後、映画に転身。戦争を見据えた「人間の条件」、森繁久弥主演の喜劇「社長」シリーズなど、さまざまな女性の役を自然に演じ分けた名女優だった。 70年には日本テレビ系「細うで繁盛記」に主演。貧乏旅館に嫁いだ料亭の娘・加代を演じた。冨士真奈美(63)演じる義妹に「加代っ、お前に食わせる飯はにゃーずら」といじめられるシーンなどが反響を呼び、国民的なヒロインとなった。 仕事と私生活をはっきりと区別する人で、仕事が終わるとすぐに自宅に戻る生活だった。プライベートを全く明かさず、独身のまま生涯を終えた。
平均28・1%◆細うで繁盛記 読売テレビ制作。1970年(昭和45年)から73年まで放送。伊豆・熱川温泉の旅館に嫁いだ新珠さん演じる加代の奮闘記。加代は、小じゅうとらにいじめられながらも弱小旅館「山水館」を大手チェーンに育て上げる。共演は夫役の滝田裕介、義妹役の冨士真奈美、加代の恋人役の高島忠夫ら。平均視聴率は28・1%で、40%を超える回もあった。
森繁久弥、新珠さんに「静かにおやすみ」■俳優森繁久弥(87) 私の知らないところで、ひそかに恋でもしておられたのでしょうか。わたしたちの、何一つ知らないところで花々のこぼれる、あの世へ行かれたのでしょうか。静かにおやすみください。奥さん役一番■俳優小林桂樹(77) 正月に年賀状をいただいたが、字がちょっと乱れていたので気にはなっていた。共演した中で最も印象に残っているのは「江分利満氏の優雅な生活」と「女の中にいる他人」。いずれも妻役で、派手ではないが、渋い魅力があった。中流階級以上の奥さん役が1番のはまり役だったのではないか。最近、夫婦の役で共演する話があったので、とても残念です。まだまだ活躍■女優有馬稲子(68) 本当にびっくりしています。3年前に映画祭で一緒になって同じテーブルで食事をしたのが最後になってしまいました。宝塚時代はお互い若くて、「きょうちゃん」と呼んでとても楽しかったですね。明るくて面白くて、言いたいこともはっきり言う。それに加えてお芝居のセンスもとてもいい方でした。まだまだ活躍できたはずなのに、本当に残念で仕方ありません。着物似合ってた■女優冨士真奈美(63) 突然のふ報で驚いています。数年前に「細うで繁盛記」を振り返る番組でお会いしたのですが、その時はとてもお元気でした。昔と変わらずにきれいでした。ドラマを収録していたころは、清そな感じで、着物が似合っていたことを記憶しています。旅館のおかみさん役は適役でした。プライベートな部分は、あまりお話になる方ではありませんでしたね。でも、それがミステリアスで美しさに磨きをかけていたようでした。尊敬する大先輩■女優司葉子(66) 突然のことでがっくりきています。プロ意識の高い尊敬する大先輩でした。現場で監督さんにきちんとご自分の意見を伝えて厳しいディスカッションをしていた姿がとても印象的です。着物がとても似合う日本的な美しさをお持ちでいらした。あまりプライベートを見せなかったのですが、いつか冗談で「葉子ちゃん、今度生まれ変わったら2人で歌を出して全国を回ろうよ」とおっしゃっていた笑顔が今も忘れられません。夫婦茶碗のよう■俳優大村崑(69) 腰を悪くされて手術を受けられたとはうかがっていましたが、まさかそのまま亡くなられるとは……。「細うで繁盛記」では新珠さんが演じた女将(おかみ)を懸命にもり立てる番頭の役どころでしたが、新珠さんは大阪から単身で東京の撮影現場に来ていた私の茶わんとはしなどすべて準備してくださって。色違いのお茶わんやおはし……。まるでめおと茶わんのようでした。「まさか…」絶句■女優八千草薫(70) この日、都内でのドラマ収録中に知らせを受けた。新珠さんが具合があまりよくないことは知っていたが、関係者からふ報を聞くと「まさかそんなに悪かったなんて……」と絶句したという。所属事務所は「今はとてもコメントできる状態ではありません」と話した。女優の仕事勉強■女優柏木由紀子(53) 「細うで繁盛記」で新珠さんの妹役を演じさせていただきました。女優という仕事の素晴らしさを勉強させていただきました。主人(故坂本九さん=享年43)との披露宴にも来ていただきうれしかった。
政治家との隠された恋も戦後の代表的女優の1人、新珠三千代さんが、多くの「銀幕のスター」がそうであるように、私生活をベールに包んだまま静かに人生の幕を引いた。宝塚、映画、舞台など幅広く活躍したが、テレビドラマにも代表作が多い。まま子いじめの愛憎ドラマ「氷点」は最終回で42・7%の最高視聴率を記録、「細うで繁盛記」も平均30%に迫る人気番組だった。 新珠さんに初めて会ったのは「細うで――」の収録先の東京・日比谷スタジオだった。「氷点」の冷たい母夏枝のイメージがあったが、そんな先入観は瞬く間に吹き飛んだ。 「ドラマの主人公の加代は女のど根性があってキリッとしているけど、本当の私は明るくてのんびりした性格なのよ。加代のような頑張り通す生き方はとてもできないわ」という。着物も仕事だけ、普段は着物が嫌いで洋服党。美容院に行くのも嫌でロングヘアが多く、自分で髪をいじっているのが好きという。スクリーンやテレビで見る以上に際立って美しく、そしてアンバランスにも思えるじょう舌さが印象だった。 だれからも好かれる庶民的な美女だったが、生涯独身を通した。戦後を代表する政治家とのシークレットラブがうわさされたことがある。否定も肯定も一切しなかったのは信念の女優らしく「銀幕のスター」の重みをみせたのだと思う。 数多くの映画の中で忘れられないのが小林正樹監督の大作「人間の条件」だ。新珠さん演じる美千子が苦難を乗り越えて戦地まで夫・梶を追い求める。幻想的なラブシーンとともに極限の夫婦愛は今も鮮やかに脳裏に浮かび上がる。果てしなく魅惑的で存在感のある、不世出のスター女優だった。ごめい福を祈りたい。【編集委員・小林秀夫】
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