でんめおやじことメディア戦略本部石井政己(57)が7月23日、BRM723青葉ブルベ麦草400(制限時間27時間)に参加してきた。前回の伊豆300に続くスーパーコースで、獲得標高はなんと6000メートル。6年ぶりとなった400キロへの挑戦は果たして成功したのか。

国道では2番目に標高の高い麦草峠(21276メートル)
国道では2番目に標高の高い麦草峠(21276メートル)

 コースは東京・稲城を午前3時に出発し、名栗から山伏峠(608メートル)をまず越える。その後はアタック299(国道299号)で、志賀坂峠(786メートル)、十石峠(1351メートル)を越えて佐久穂に下り、さらに国道では2番目に標高の高い麦草峠(21276メートル)を越えて茅野へ。帰りは長い下り基調で国道20号から甲府、石和を経由し、最後は真っ暗な柳沢峠(1472メートル)を越えて丹波山、奥多摩と走って稲城に翌日の午前6時までに帰るというもの。前半の220キロだけで獲得標高が4000メートルという超ド級のコースだ。

前半のコースプロフィル。山伏峠、志賀坂峠、十石峠、麦草峠と段々と高くなっている。前半の220キロで獲得標高は約4000メートル
前半のコースプロフィル。山伏峠、志賀坂峠、十石峠、麦草峠と段々と高くなっている。前半の220キロで獲得標高は約4000メートル
後半のコースプロフィル。序盤にあるのは富士見峠。で〜んと構えているのが柳沢峠
後半のコースプロフィル。序盤にあるのは富士見峠。で〜んと構えているのが柳沢峠

 ポイントは茅野への到着タイム。ここで1時間の貯金があれば完走が見えてくると思われるのだが、志賀坂峠、十石峠、麦草峠は過去のブルベで逆から夜に登坂したことがあるだけで、坂の様子は分からない。おまけに麦草峠は26キロと長い。予想がつかない中でのスタートとなった。

 少しでも貯金を稼ぎたい36キロ地点の飯能のPC1(セブンイレブン飯能永田店)に午前4時36分に到着。貯金は1時間12分とまずまずのペースだった。

 このコースだと「丘」に過ぎない最初の峠、標高608メートルの山伏峠は残り4キロがきつい。おまけに途中からは霧雨が降りだし路面も濡れてきた。雨は大嫌いなので「このまま降り続けばリタイアか」とちょっと気持ちが後ろ向きになる。

午前5時57分、山伏峠のピークを過ぎたところ
午前5時57分、山伏峠のピークを過ぎたところ

 午前5時57分に61・2キロ地点の山伏峠のピークに到着。雨なので通過し、そのままダウンヒル。下りも当然ウエットで、ブレーキシューがあっという間に減りそうだ。ところが正丸トンネル前まで下り、国道299号に入ると道は乾いていて雨が降った様子がない。ひと安心したのだが、志賀坂峠への上りへ入ると再び霧雨が降りだした。

 志賀坂峠はトンネルまでの6キロがきつくなるのだが、こう配は5%前後。ヘタレ足のおやじでも何とか時速10キロを保てる優しい坂だ。

午前8時26分、志賀坂トンネル
午前8時26分、志賀坂トンネル

 109・7キロ地点の志賀坂トンネルを午前8時26分に通過。下りでスピードが上がると水しぶきがシューズにかかり、だんだんと湿り気を感じようになる。このまま雨が降り続けば、シューズは水びたしになる。びしょ濡れの靴下のまま残り300キロ近くを走ると思うと、また気持ちが萎えてきた。

 雨が強くなったらリタイアだな、と思いながら下っていると、またしても道は乾いてきた。どうもひと山越えるたびに天候が変わっているようだ。ブルベじゃないとめったに走れるコースではないので、気合を入れ直して走り続ける。

 スタートから123キロ付近の道の駅上野村には6時間ほどで到着。グロス時速20キロをキープし、いいペースだ。だが、ここからが上り本番。開店したばかりの道の駅でトイレを借り、十石峠へと向かう。

 緩やかだった坂がきつくなるのは、南牧・下仁田へ向かう県道45号との分岐がある地点。ここから道が狭くなり、ピークまでは約15キロのきつい上りが始まる。ただ、車の通行はこの先はほとんどなかった。ピークまでにすれ違った車は3台ぐらい。抜かれたのも2台ぐらいだっただろうか?

 終盤のこう配は10%ほど。「きついですねぇ」と言いながら上ってきた後続のブルベライダー2〜3人にあっさりパスされた。そのパスしたライダーの1人が途中で休んでおり、僕がひーはー言いながら休まず上っていると「頑張りますねぇ」と声をかけられた。「いや、遅いんで休んでいるヒマはないんですよ」と答えると、「貯金は2時間ありますよ」と教えてくれた。う〜ん、あなたの足では2時間で十分でしょうが、僕の足でこの後の麦草峠を考えると足りないかもしれないんだよねぇ。コンビニストップは最短時間にしているし、SOYJOYも乗りながら補給している。

 遅いながらも頑張って上っていたのだが、ピークが近づくとまたしても霧雨が降りだした。路面も濡れてきた。涼しくて上りやすいし、ボトルの水の消費量も減ってありがたいのだが、先へ行く気持ちがまた萎えてくる。ウエアもせっかく乾き始めていたのに…。「リタイアかなぁ」。またしてもそう思い始めた。雨の下りは楽しくない。とにかく十石峠までは行こう。気を取り直して回し続けた。

 距離的にピークまであと少しというところで道が下り始めた。あれ、通り過ぎたかな? 不安な思いで走っていると、再び急坂が目の前に現れ、それを上り切ると午前10時54分に143・7キロ地点の十石峠にたどり着いた。またひと山越えたせいか、道は乾いていた。長い登坂なので1度ぐらいは足付きするかと思っていたが、奇跡的に足付きなしで制覇した。

午前10時58分、十石峠の碑
午前10時58分、十石峠の碑
午前11時、十石峠の展望台
午前11時、十石峠の展望台

 3人ほどがピークにいたのだが、「普通だったらこれで終わりですよね」というひと言に全員納得。峠は3つで十分。ここでUターンして帰りたい。しかし、そんな楽をさせてくれないのが青葉ブルベ。まだ麦草峠があるし、それさえもラスボスじゃない。今回のラスボスはツインタワーなのだ。先は長い。

 周辺にはガスがかかっていたが、路面も乾いて雨が降った様子もない。ダウンヒルも時間を挽回できるスピードで行けるだろう。上りが終わって元気が出てきたことだし、完走目指して頑張ろうか。

 国道141号とぶつかる千曲病院前交差点までは18キロの長い下り。気持ち良く下っていると、青空も見え始めてきた。

 162・4キロ地点のPC2(セブンイレブン佐久穂町店)には午前11時44分に到着。貯金は2時間8分。まずまずのペースだ。

 さて、いよいよ最初のラスボス、麦草峠へのアタック。26キロと長いので刻んでいくつもりだ。霧雨が降りだした時に付けたアームウオーマー、レッグウオーマーを脱ぎ、とりあえず10キロぐらいで休憩かなと思いながら上り始める。

 清水町の交差点を曲がると、いきなり急坂。これがほぼ直線的に続いていく。10キロもたないな。5キロで休憩か。

午後0時2分、麦草峠まで26キロ
午後0時2分、麦草峠まで26キロ

 ピークまで100メートルごとに標識が現れる。900メートルが最初と思ったが、後で調べると800メートルが最初のようだ。いずれにせよ、あと1000メートル以上上らなければならない。

午後0時16分、標高900メートル
午後0時16分、標高900メートル

 メルヘン街道という名称は、ドイツにあるメルヘン街道に似ていることから名づけられたようだ。山岳ドライブを楽しむドライバーにとっては楽しい道だろうが、サイクリストにとっては「どこがメルヘンやねん?」という、憎たらしい道以外の何者でもない。

 きつい坂を時速6〜8キロで黙々と上っていく。何人かに抜かれるが、焦らずゆっくり自分のペースで進む。

 天気は良くなり多少暑くなったが、適度に日陰があったり標高が高く空気もひんやりしており、汗だくでの登坂にはならずにすんだ。これが梅雨明け後の灼熱地獄だったら、つらかっただろう。

午後1時27分、標高1500メートル
午後1時27分、標高1500メートル
午後1時40分、八千穂高原
午後1時40分、八千穂高原

 5キロでダウンかと思ったが、なんとか100メートルの登坂を10分強でクリアし、気持ちも切れないで上り続けていると、傾斜が緩やかになった。事前にプロフィルを見て予想はしていたが、足が本当に楽になった。スキー場周辺に自販機ぐらいはあるだろうと、この当たりでコーラ休憩をしようと思っていたが、このまま足付きなしで行けそうな気がした。

 逆から上った7年前は2度ほど休憩したが、今日は一気に26キロ行っちゃおうか。

午後2時15分、標高1800メートル
午後2時15分、標高1800メートル

 登坂開始から20キロ。あと少しとなったところでまた傾斜がきつくなってきた。う〜ん、やっぱりダメか。一度足付きを考えると、次はどこかいい場所はないかと探し始めることになる。もともと刻むつもりでいたので悔しさはないが、半端な所で止まるのはちょっと恥ずかしい。案の定、カーブで少しスペースがあったので止まっていると、何人かにパスされた。やだな、こんな姿を見られちゃたよ。こんなことなら八千穂高原の自販機で止まれば良かった。

 気を取り直して登坂再開。ピークへ向かってまだまだきつい坂が続く。

午後2時38分、標高2000メートル
午後2時38分、標高2000メートル
午後2時38分、こう配9%
午後2時38分、こう配9%

 2000メートルを超えた後に8%や9%の攻撃はやめてほしい。

午後2時56分、標高2100メートル
午後2時56分、標高2100メートル

 あと27メートル(^o^)

午後3時、標高2127メートル麦草峠到着
午後3時、標高2127メートル麦草峠到着

 ついにピーク到着! 26キロはやはり長い。登坂にかかった時間は3時間で、7年前の逆方向とほぼ同じタイムだった。

 1週間前にスタッフの方が試走した時はウエットだったようだが、この日の路面は乾いていた。ダウンヒルも楽しめそうだ。

 やっと4つ目の峠をクリア。残るは2つ目のラスボスの柳沢峠だけだ。ふぅ……〜。

午後3時41分、ダウンヒルもほぼ終了
午後3時41分、ダウンヒルもほぼ終了

 26キロのダウンヒルも長い。終盤は気持ちの良い草原地帯を走るのだが、向かい風だった(T_T)

 218・3キロ地点の折り返しのPC3(セブンイレブンちの運動公園店)に午後4時4分に到着。貯金は前半はよくて1時間と予想していたが、1時間32分とほんの少しだが余裕ができた。後半は柳沢峠を除けば下りと平たん。目標としていた24時間以内の完走が何とか見えてきた。

 アームウオーマーだけを付け、PC3を出発すると上りが始まった。そういえば帰路は下りだけじゃなく峠があるとブリーフィングで言っていた。短いが少しきつい上りがあったのでここのことかなと思ったが、その後も甲州街道へ入っても道はなんとなく上り基調。おまけに強烈な向かい風。進まないよ〜。

 何となく見慣れた風景。そして出てきた「富士見」という標識。もしかして富士見峠に向かっている? ブリーフィングで峠と言ったのは富士見峠のこと? 標高プロフィルで何となく上っているところがあるなと思ったが、それが富士見峠とは思わなかった。ここは過去のブルベでさんざん走った道だが、ほかの峠が強烈過ぎるのでまったくノーマークだった。特にきつい上りというわけではないが、予想していないだけに疲れが増してくる。

午後5時4分、富士見峠
午後5時4分、富士見峠

 懐かしき標高952メートルの富士見峠に到着。さあ、ここからは本当に甲府へ向かって50キロ下るだけだ(^o^)

 塩崎付近で国道20号を離れ、県道6号へ入る。甲府から善光寺、石和温泉と進む道は車も信号も多く、渋滞していてストレスがたまった。しかし、石和付近から見えた花火に癒された。ナイトランはこうでなくちゃ。午後7時過ぎにここを通過するという幸運にも恵まれた。遅くて良かった(^o^) 速い人は振り返って見なくちゃいけなかったらしい。

 石和温泉の花火と思っていたが、あとで調べるとこれは「笛吹川県下納涼花火大会」で、ルートのすぐ右手にある万力公園から約3000発が打ち上げられたようだ。この公園の横を通った瞬間にちょうど打ち上げられ、迫力ある音とともに火の粉まで飛んできた。ストップして写真と撮ろうとしたが、道が狭く人通りも半端なかったのであきらめた。右折して渡った、笛吹川にかかる八幡橋でも多くの人が花火見物をしていた。

 295・4キロ地点のPC4(セブンイレブン甲州塩山千野店)へは午後8時22分に到着。貯金は2時間18分。3時間欲しいところだったが、向かい風や渋滞、そしてコーラ休憩を1度取ったことで2時間18分までしか伸ばせなかった。このまま行くと24時間台のゴールだ。

 ラスボス柳沢峠は16キロの登坂。一度、ブルベで下ったことがあるが、それはそれは気持ちのいいダウンヒルだった。ということは、上るのはきついということだ。

 出だしから直線のきつい坂。これが延々と続く。真っ暗な中、黙々と上る。人家は途切れない。

 やがて道はカーブしてくるが、通常の峠道と違い、橋で谷を横断しながら標高を上げていく。傾斜はかなりきつい。休みたいが、ストップできそうな緩い傾斜は現れないし、スペースもなさそうだ。上り続けるしかないか。

 気がつくと、雨が降りだしていた。いや、雨ではない。クネクネした峠道になったところで、回りの生い茂った木々から風で水滴が飛ばされているようだ。路面もしっかり濡れてきた。再び雨のヒルライムだ。しかし、これが逆に良かった。予想ではこの上りが一番眠くなると思っていた。一定のリズムで振動し、体も暖まるせいか、これまでのブルベでは夜のヒルクライムで必ず眠気を催してきた。たまらず、止まって自転車をまたいだまま目を閉じたこともある。もしかして、柳沢峠のピークで仮眠する羽目になるかと心配もしていた。それが、この雨もどきで眠気も覚めた。体も暖かくもなく寒くもなく、いい感じだ。

 でも、きついなぁ…。休む場所があれば休みたい。

 そう思いながら上り続けること2時間20分。午後10時42分に奇跡的に足付きなしでピークに到着した。遅くてもね。漕ぎ続ければいつかは必ずたどり着く。切れない気持ちが大切だ。

午後10時44分、柳沢峠
午後10時44分、柳沢峠

 これで上りは終わり(^o^) あとは下るだけだ。レッグウオーマーを付け、ウインドブレーカーを着て、古里のコンビニまでの45キロのダウンヒル開始。しかし、霧が行く手を阻んだ。視界は10メートルもない。道がどっちに曲がっているかも分からない。カーブで方向を示す矢印がこれほどありがたいと思ったことはない。ブレーキを引きながら、カーブではほとんど止まるようなスピードでおそるおそる下って行く。

 そして、寒さも感じてきた。我慢できなくなったので、下っている途中のトンネルでストップしレインウエアを着込んだ。サドルバッグがパンパンになったけど、持ってきて良かったよ。暖かい。

 奥多摩側からは2度上ったことがあるので、暗くてもどのあたりを走っているかはなんとなく分かる。それでも霧のカーテンがおりた峠道は不気味だ。一ノ瀬を過ぎ、丹波山あたりで人家が見えてきて何となく安心した。路面もこのあたりから乾き始めていただろうか。

 長い長い道のりだった。特に奥多摩湖の周辺を走っている時がことさら長く感じた。

 357・5キロ地点の最終PC(セブンイレブン奥多摩古里店)には午前1時9分に到着。貯金は貯金1時間41分。霧のためにスピードが上がらず、貯金も思ったより増えていない。残り43キロは緩やかな下り。24時間台のゴールだろうか。

午前3時24分、ゴール受付後
午前3時24分、ゴール受付後

 6年ぶりに400キロを完走。ゴールは午前3時15分。タイムは24時間15分。ぎりぎりでのゴールを予想していたので、自分としては頑張ったと思う。遅いけどねぇ。

 runtasticのデータによると、走行距離407・4キロ(こんなにロスしていないはずだが)、走行時間24時間21分53秒(午前3時前にスタートしたのでこれは正しい)、獲得標高9483メートル(そんなバカな)、グロス平均速度16・7キロ、アップ87・8キロ、ダウン88・0キロ、フラット231・9キロだった。

 十石峠、麦草峠、柳沢峠と長い上りがあり、過去参加した400キロブルベの中では今回が最高難度だったが、終わってみると意外だが楽しかった。

 最大の要因は睡魔との戦いがまったくなかったことだ。まず午前3時スタートのためゴールがその分早くなり、一番眠くなる丑三つ時(午前2時から2時半ごろ)にうまくすればゴールの可能性があった。

 また、最後の柳沢峠でも雨もどきで気温が低く、下りは寒気を覚えるほど。さらに濃霧の中の下りとあって気が抜けず、眠気どころではなかった。

 天候も恵まれた。雨が降りだした時はやめようかと思ったが、逆にこのおかげで涼しい登坂となり、麦草峠の登坂も晴れ間はあったがほぼ曇り。ボトルの水がなくなることもなく、余計なストップをする必要がなかった。そのため、峠での足付きは麦草峠の1度だけ。予想外の展開だった。逆に一番辛かったのは古里からゴールまでの平たん部分。50キロ近く、何の刺激もないので飽きてきた。「こんなにつらいコースを走ってきたんだから、残りは省いてさ。走ったことにしようよ」なんて思った。

 あと1週間遅ければ、梅雨明け後の灼熱地獄となってもっと時間がかかったか、甲府でリタイアだったかもしれない。

 ともあれ、伊豆300に続き麦草400とスーパーなブルベを完走したことは自信になった。距離感もしっかり破壊されてきた。次は天城600かな。いや、その前にど平たんな渡良瀬300だ♪ 【メディア戦略本部 石井政己】

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●BRM723 青葉スーパー400km麦草 エントリー102人。完走63人、DNS24人、DNF15人。完走率81%

◆コース  稲城〜名栗〜山伏峠〜秩父〜志賀坂峠〜十石峠〜佐久穂〜麦草峠〜茅野〜富士見峠〜甲府〜塩山〜柳沢峠

※以下はruntasticでのデータ

◆距離 407.4キロ

◆時間 24時間21分

◆グロス平均速度 16.7キロ 

◆獲得標高 9483メートル(ルートラボでは6088メートル)

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