ひっそりとした町の中に1軒のビッレリア
先日、ジェノバの近くで何件かまとめて仕事をこなさなければならないことがあって、ジェノバから山方面に20キロほど入ったブサッラという町に宿をとった。本当はジェオという手前の町にメルキュールホテルが安価で出ていたので、そこがよかったんだけど、仕事先の人が「そこはジェノバの丘の上の町で道が狭くてたどり着きにくい」というのでブサッラの高速出口近くにあるホテルを予約してくれた。
その名も「Albergo Birra」。日本語に訳すと「ビール・ホテル」。

- 宿泊した「ビール・ホテル」は、こんな建物です
着いたのは夜遅くだったが、野良猫一匹歩いていないひっそりとした町の中でひときわ煌々と光が灯った場所がひとつだけあった。ビッレリア(ビヤホール)で、外にまで人が溢れていた。カーナビの指示する場所があいまいでよくわからなかったので、酔っ払いにからまれたら面倒だなと思いながらも、他に道を聞けそうな場所などないから、その前に停めて近くにいた青年に聞いたら、そこがビール・ホテルだった。
「ビール・ホテル」という響きはなんだか村上春樹の「羊をめぐる冒険」にでてくるイルカ・ホテルを連想させるけど、残念ながらこのホテルには「ビール博士」はひそんでいなかった。
古いビール工場を改装し地ビールも製造
翌朝、明るくなってあらためて建物を見てわかったのだが、ビール・ホテルは古いビール工場を改装した建物だった。工場はまだ稼動していて、少量ながら地ビールを製造している。
煌々と電気が灯っていたビッレリアは、お隣の工場直送ビールを振舞うビヤホールだったわけだ。
浅草生まれ育ちの僕としては、かつてあった吾妻橋のアサヒビールの工場直結のビアホールを思い出した。
道を尋ねた青年はホテルのフロントのエンリコさんで、ビール・ホテルの成り立ちを教えてくれた。
「ブサッラ・ビールはイタリアでもっとも古いビールのひとつです。創業は1906年ですが、第1次世界大戦後の大恐慌で倒産に追い込まれました。その後、工場はずっと放置され、1970年代以降は果物屋や鏡とクリスタルの工場、家畜舎などに使われました。1995年、地元の企業家たちがこの歴史ある建築物を再建しようというプロジェクトが始まり、地ビールとともに美味しい料理も提供するレストランが併設されたのです」
現在のホテル棟も改装前は、その後、床が抜け落ちた惨たんたる状態だったそうだけど、現在はコンパクトな3つ星ホテルに生まれ変わった。

- 個性的な“漆黒のビール”Lerog Brown
念押された「飲むまで冷蔵庫」
工場の正式名称は、ブサッラ・ビール。現在はミューラー、アンバーなど12タイプ作っている。中でも「Lerog Brown」は漆黒に近いような黒いビールで、芳香感といい口当たりといい「麦」そのもの。そしてゆっくりと押し寄せるアルコール感。試しに1本買ってみたけど、「飲むまではホテルに冷蔵庫に入れておいてくださいね」と念押しされるほど温度変化で味が変わるらしい。まさに文字通りの「生ビール」なのだ。
イタリアというとワインと日本では思いがちだけど、実はイタリアには地ビールが数多くある。大メーカーとしてはモレッティくらいしかないこともあり、「イタリア人はビールを飲まない」と思いがちだけど、こういった地ビールは若者たちを中心に愛好家が多い。
49歳までがビール派で50歳からワイン派
約10年ほど前のイタリアの国立統計研究所(ISTAT)の「あなたはビール派? ワイン派?」という調査では、40歳を境に逆転していた。その後の加齢を考えると現在の50歳以上はワイン派、15歳から49歳まではビール派にくっきりと分かれている。
ちなみに、2012年の法律改正で飲酒は18歳からに改正されました(イタリアは18歳で成人)。(イタリア・ミラノから新津隆夫。写真も)

- ほそぼそと営業を続けている工場部分

