Città dell'Amore=愛の町を象徴するかのようなハート型の飾りつけ
Città dell'Amore=愛の町を象徴するかのようなハート型の飾りつけ

ミラノとヴェネツァの中間

 実に15年ぶりにヴェローナに行ってきた。ミラノの東、150キロ。ヴェネツァとのちょうど中間に位置する。

 「ファッションの街、ミラノ」「アドリア海の真珠、ヴェネツィア」「永遠の都、ローマ」。イタリアの各都市にはキャッチフレーズがあるけれど、ではヴェローナのそれはなにかというと「愛の町」なのである。

 なぜゆえヴェローナが「la città dell’amore」(愛の町)なのかといえば、理由は至極簡単でシェイクスピアの「ロミオとジュリエット」の舞台となっているからだ。

「お~ロミオ」で有名なジュリエットの家。今や恋人たちの聖地となっている。このバルコニーはファンのために造られたもの
「お~ロミオ」で有名なジュリエットの家。今や恋人たちの聖地となっている。このバルコニーはファンのために造られたもの

ロメオとジュリエッタ

 ちなみに、ロミオは英語読みで本来の名前(ラテン語読み)はロメオ、ジュリエットはジュリエッタ。イタリア男たちがアルファ・ロメオの名車、ジュリエッタにひときわ熱い思いを寄せるのは車の性能の問題だけではないと思う。ジュリエッタはジュリアという名の女性が子供の時に呼ばれる愛称でもある(小さなジュリアの意)。

 「愛の町」は非常にコンパクトで、ヴェローナの玄関口、ポルタ・ヌオーヴァ駅から歩いて10分ほどで古代劇場「アレーナ」のある広場に着けるし、そこからもうひとつの観光名所である「ジュリエットの家」までも5分ほどだ。

愛は不変だが町は変わった

 15年前、僕はなにをしにヴェローナを訪れたかというと日本から来た友だちのたっての希望でオペラの「カルメン」を見に行った。「カルメン」はご存じのように恋の物語だけど、15年前にヴェローナに行った時には、町はもっと質素だったと記憶している。

 ミラノのスカラ座のオペラは12月7日、ミラノの守護聖人のお祭りの日と決まっており冬を告げる風物詩であるのに対して、野外であるヴェローナは夏に行われるオペラとしてファンが多い。昼間の強い日差しとは相反して夜は涼しい風がアレーナを吹き抜け、そのコントラストがより一層オペラの舞台を引き立てる。

初代ローマ皇帝の時代に造られたとされるアレーナ
初代ローマ皇帝の時代に造られたとされるアレーナ

アレーナ最上段遮るものは何もない

 イタリアの都市は景観保護の観点から背の高い建物は日本に比べると少ないが、それでもミラノでは“グラッタ・チエロ“(高層ビル)が増えた。グラッタとはひっかく、チエロは空。英語のスカイ・スクレイパーをそのまま訳した言葉だという。

 ヴェローナは昔ながらのイタリアの都市そのままで、アレーナの2階最上段に上がると視界を遮るものなどまったくなく町を一望できる。

 「カルメン」を見た時はいわゆる桟敷席はレッドカーペットが敷き詰められて、特設の椅子も設置されていたけど、ふだんはドンガラのアレーナの中に入ることができる。で、驚いたのがオペラ開演中はカーペットのせいでわからなかったけど地面が砂なのだ。

 調べてみたらアレーナとはラテン語で砂の意で、「横浜アレーナ」などの名称から立派な劇場のことを表すのかと思っていただけに腰砕けの思いがした。

観光客が触っていくので胸のところが黄金色に輝くジュリエット像
観光客が触っていくので胸のところが黄金色に輝くジュリエット像

ヴェローナは町全体が世界文化遺産

 ジュリエットの家は大きな看板も表示もないゲートをくぐった場所にある。気を付けていないと通り過ぎてしまう。物語に出てくるバルコニーは実際の建物には存在せず、ファンのためにあとから増設されたものだという。中庭にはジュリエット像があり、観光客の記念写真スポットになっている。

 ヴェローナはバレンタインデーには毎年、コンサートが開かれ、レストランでは特別メニューをふるまって「愛の町」を盛り上げているのだそうな。

 ちなみに、ヴェローナは町そのものがユネスコ世界遺産(文化遺産)に登録されている。そんな場所でも「愛する人を誘ってヴェローナへ!」をキャッチフレーズに町おこしに躍起というのは違和感を感じざるを得ないけど、それこそがオジサン的な不感症ってものなのかね。(イタリア・ミラノ在住・新津隆夫。写真も)