ドゥオモ。ミラノを象徴する大聖堂。周囲には観光客、地元の人、移民などなど大勢の人たちが行き交う
ドゥオモ。ミラノを象徴する大聖堂。周囲には観光客、地元の人、移民などなど大勢の人たちが行き交う

日本でも外国人移民が問題

 イタリアは移民の国だ。

 唐突にこういうとピンと来ないかもしれない。日本語では日本に永住権を求めてくる外国人も移民なら、かつてのブラジル入植のように他国に移り住むのも同じく移民。しかし、イタリア語では、外国に移り住むのはEmigrazioneで、外国からイタリアに来るのはImmigrazioneで異なる。

 日本での目下の話題は外国人移民。しかし、イタリアでは外国からの移民も、イタリアを去るイタリア人の移民も両方問題となっている。

 アル・カポネの例を出すまでもなくかつてのアメリカにはイタリア移民がたくさんいる。1800年代末、イタリアが統一された時にシチリアや南イタリアの人々が冷遇されたことがきっかけとなり、主にそれらの地域か祖国を捨てアメリカを目指した人々が多かったという。

年に10万人出て行くことも

 現在のイタリアの人口は約6000万人。海外にいるイタリア系移民はその8%にあたる約500万人という。

 統計上は2006年までは300万人ほどだったが、近年は年間平均4、5万人のイタリア人が移民として国を出て行き、多い年は10万人にも及んだという。

 イタリアから出て行った移民の56%は男性で、とても興味深いのは3人に1人は18~34歳で、その多くが高い教育を得ている者なのだそうだ。

 イタリア国立統計研究所の「海外移住者と国内居住者の人口統計」によれば、2015年に大学を卒業したイタリア人のうち、前年比で13%多く海外に脱出した。

頭脳流出が進む

 その理由は、25~34歳の大卒者の実に16%が失業状態にあること、そして、政治経済の混迷からイタリアの未来に期待を持てないことだという。

 これらの「頭脳流出」は、イタリア移民がかつての貧しい南イタリア中心から、近年ではロンバルディア州(州都ミラノ)やヴェネト州(州都ヴェネツィア)など経済的にも恵まれた地域が多く、行先もイギリス(17.1%)やドイツ(16.9%)が目立っている。

 その一方で、興味深いデータもある。ひとりの女性が生涯に何人の子供を産むかという合計特殊出生率では、イタリアは調査196カ国中、イタリアは1.38人で179番目、日本は1.27で190番目だ。にもかかわらず、2011年から2015年まで、イタリアの人口は増え続けた。詳細に言うならば、イタリア国内におけるイタリア人の人口は減り、イタリア国の人口は増えた。イタリア国内の移民には少子化問題などないからだ。

 現在、イタリアの人口の8.3%は外国人。ミラノに限れば2015年の調査で18.9%が外国人。その多くは東欧や北アフリカ、中国、インドからの移民である。イタリアの公立学校はだいたい1クラス20人制なのだけど、ミラノ市内の学校で始業当日にクラスに行ったら、イタリア人は自分の娘1人だけだった、なんていう新聞記事が載っていた。

日本で働きたい

 僕が5年前から日本語を教えている語学学校のクラスは、まさに前述の「25~34歳の大卒者」だが、幸いなことに彼らはちゃんとした職を得ている。それでも口々に「ロンドンに移り住みたい」「日本で働くことはできないのか?」とイタリア脱出をほのめかす。

 「そんなことないじゃない。イタリア、いいところもある」と僕が言うと「貴方は自分で選んでここに来た。しかし、私たちは選んだわけじゃあないから。仕方なしにここにいる」とため息をつく。

 イタリアに希望を持って来る移民。そこには希望はないからと自ら捨てようとする移民。ね、移民はひとつではないでしょ?(イタリア・ミラノ在住・新津隆夫。写真も)