イタリアのベニスほど大きくはないですが、運河にはちゃんと橋もかかっています
イタリアのベニスほど大きくはないですが、運河にはちゃんと橋もかかっています

サンタモニカから少し南下

 観光地サンタモニカから少し南に下ったところにあるベニスは、ヒッピーやアーティストが多く集まるエリアとして知られ、個性的な雰囲気が魅力のオーシャンフロントの町。そしてここには、知る人ぞ知る運河があります。LAになぜ運河? と思われる方もいると思いますが、その答えは「ベニス」という名前からも想像できるように、実はイタリアのベニス(ベネチア)を参考に開発された町だったからです。

両側に立ち並ぶ個性的で素敵な家を眺めながら歩く、運河沿いの遊歩道は散歩に最適
両側に立ち並ぶ個性的で素敵な家を眺めながら歩く、運河沿いの遊歩道は散歩に最適

運河も6本の水路に名残

 タバコで財を成した大富豪アボット・キニー氏は、1905年にベニスビーチ一帯の地主となり、「アメリカにもベニスを作ろう」と自らの潤沢な資産を使って憧れの土地だったイタリア・ベニスの町を再現したのです。1920年にキニー氏が亡くなった後はロサンゼルス市の一部となったものの、彼の名前は今もカフェやショップが立ち並ぶおしゃれなアボット・キニーという通りの名前として残されており、彼が掘らせた運河も6本の水路に名残をとどめています。

家の前にはボートも停泊。週末にはボートに乗って遊ぶ子供の姿も見かけます
家の前にはボートも停泊。週末にはボートに乗って遊ぶ子供の姿も見かけます

ゴンドラ浮かべ優雅な生活

 まだ馬車が主流な交通網だった100年前には、本物のベニスのような大規模な運河があり、裕福な人たちがこの町に住みついて運河にゴンドラを浮かべて優雅な生活をしていたと言われています。当時は交通としても重要な役割も果たしていた運河ですが、車社会になっていくにつれて交通の妨げとなり、その多くは埋め立てられてしまいました。さらに1940年代には戦争の影響から維持管理をする予算がなくなり、荒れ果ててしまった時代もあったと言われています。

運河にはさぎの姿も。とっても自然豊かです
運河にはさぎの姿も。とっても自然豊かです

ジュリア・ロバーツも住んでいる

 しかし、80年代に入って米合衆国国家歴史登録財に登録されたことを機に大規模な改装工事が行われ、残された運河はきれいに整備されました。その結果、現在では運河に面する一帯はジュリア・ロバーツらハリウッドセレブも住む高級住宅地となり、整備されたほとりの遊歩道は地元の人たちの憩いの場として親しまれるようになったのです。両側に素敵な家が立ち並ぶ運河は、メインの通りから少し入ったところにあるため、土地勘がないとなかなか訪れにくい場所にありますが、車は侵入できないのでそこだけは別世界で美しい景観が残っており、のんびり散策するにはぴったりの場所。そのため、犬や子供連れ、カップルらが散歩しているほか、カメラ片手に歩く人たちの姿もあります。

イタリアのベニスと同様、車の侵入もできません。ここだけはまるで別世界
イタリアのベニスと同様、車の侵入もできません。ここだけはまるで別世界

非日常を感じるベニス運河

 かつてに比べるとその規模はかなり小さくなりましたが、それでも本場イタリアのベニス同様に迷路のように入り組んだ運河には橋がいくつもかけられており、そこの住む人たちが所有するボートも浮かんでいます。春にはきれいな花が咲き、さぎが運河で小魚を狙っていたりと、とても100年前に人工的に作られたとは思えないほど自然も豊か。1時間ほどでぐるっと一周することができるので、ベニスビーチで遊んだ後やアボット・キニーでショッピングや食事を楽しんだついでに気軽に立ち寄ることができます。若者で賑わうベニスビーチの喧騒とは裏腹に、まるでおとぎの国のような雰囲気が残るベニス運河は、非日常を感じる気軽な散策コースとしてお勧めですよ。(米ロサンゼルスから千歳香奈子。写真も)