ある社員旅行に同行した。西伊豆・久料「魚磯丸」(久保田清船長)で、釣りに興ずるという。どうやら社長が釣り大好き人間で「海は生命の源だぁ~」との号令のもと、やや強引に連れてこられた社員、という図式みたいだ。最初に小さいアジやサバやイワシをサビキ釣りで生きたまま捕まえて、その小魚をエサにして狙う根魚五目がターゲットだ。さて、社員に釣りの楽しさが伝わったのか?

 三沢工芸。埼玉・川越市の看板のデザインや取り付け全般を扱う会社だ。三沢利克社長(44)が、大の釣り好きで、常連として通う魚磯丸に社員6人を引き連れてきた。9月以降、仕事がぎっちり入っている。「小さい会社だから、社員の1人ひとりの表情をみていたい。みんなもよくやってくれるから、もう8月の成績がどうこうじゃなくて、みんなで海に行くぞー、と」と三沢社長。釣りの「プルルン」を味わわせたくて、釣り経験のあまりない社員を喜ばせたかったのだ。

 久料は不思議な漁港だ。東名の沼津ICから伊豆縦貫道と伊豆中央道を経由して、大きく南下したはずなのに、港から真正面に富士山がそびえる。残念ながら、この日は雲が多くて富士山は拝めなかったが、海の青さは目にまぶしい。「キャー、海がきれい」「なんか全然、くさくないねぇ」と女性陣は大喜びだ。三沢社長の海に行くぞ作戦、どうやらいい雰囲気だ。

 今回、挑んだのは、根魚五目釣り。肉厚のヒラメが釣れる。さらにハタやカサゴもヒットする。エサは、サビキ仕掛けでアジやイワシ、サバを生きたまま釣って、船中のいけすで生かしておいて、生きエサとする。つまり、どれだけエサの生きのいい小魚をキャッチできるかがカギになってくるのだ。

 出船前に久保田船長が乗船した全員を集めた。「まず、サオの使い方を教えまーす」と呼びかけ、リールの使い方や巻かれている道糸が10メートルごとに色分けされていて、さらに1メートルおきに印がついていることを解説した。全員、真剣な表情で聞いている。釣果が期待できそうだ。

 サビキ仕掛けは7本バリで、それぞれのハリには「バケ」がついていて、コマセを振るだけで、キラキラ光るバケに食らいついてくる。水深25~30メートルのエリアで、海面から10~15メートルのタナ(魚の泳層)で次々にヒットした。1時間30分ほど釣ってそれぞれの足元のいけすはイワシ、アジ、サバでいっぱいになった。順調だ。

 左舷トモ(船尾)に陣取ったのは寺井雅和さん(42)。釣りは3度目になる。以前も三沢社長と一緒に来たが、最初は何も釣れず、2度目は船酔いで何もできなかった。「釣りは面白いのか?」という疑念が芽生え始めていた。前回の苦い思い出もあり、酔い止め薬を出船30分前にしっかり飲んだ。準備万端だ。

 ただ、寺井さんはエサになるアジを1匹しか釣れなかった。「マサカズ、何やってんだよ、頑張れよ」と怒鳴られた三沢社長から、生きたアジは何匹かもらった。口調とは違って、三沢社長、優しい。

 根魚五目は水深50~60メートルのやや深いエリア。仕掛けは2本バリで、上バリに死んだ魚、下バリに生きた元気いい魚を掛けて沈める。いきなり寺井さんのサオがしなって、カサゴをゲットした。寺井さんの勢いは止まらず、約2キロのヒラメも釣り上げた。「持たずにちょっと底から上げて、置きザオで待て」という三沢社長のアドバイスを忠実に守った。

 寺井さんは「釣り、ってこの掛かった直後の手に伝わる振動がたまらないですね。釣り、楽しいです」と笑った。

 船中ではアカハタ、カイワリなどいろいろな魚が掛かって、みるみるうちにクーラーボックスは満杯になっていった。エサに捕まえたアジやイワシも一部は締めて、食べられるように冷やした。大漁だ。

 しかし、まだ終わっていなかった。右舷ミヨシ(船首)の宮崎杏奈さん(28)のサオがギュン、と曲がった。30分ほど前に大きなアタリがあったが、途中でバレてしまった。その後のヒット。「もう大丈夫だから、慌てて巻かずにゆっくりでいいぞ」と三沢社長のアドバイスが飛ぶ。久保田船長がタモ網を構えて、2キロを超えるヒラメを釣り上げた。杏奈さんは「ブラックバスの経験はあるけど、こんな大きなヒラメが本当に釣れちゃうんですね。社長、ありがとうございまーす」とやや興奮気味だった。

 この日のご一行は、長岡温泉に宿泊。宿で釣った魚をさばいてもらい、おいしく食べることができた。どうやら、三沢社長の釣り作戦、大成功だったようだ。【寺沢卓】

 ▼宿 久料「魚磯丸」【電話】055・942・3230。根魚五目の乗合は、午前4時30分集合。コマセ・氷込み1万円。仕掛けはサビキが300円、根魚泳がせが500円。ほかに夜アジは午後5時30分集合、コマセ、エサ、氷付きで1万500円。