東日本大震災から5年以上の歳月が経過した。そして、福島・小名浜港に震災以降初めて取材が入った。「第八光勝丸」。現在、白子でおなかの膨れたマダラを狙っている。5年間、放っておいた海だ。反応はいい。とてもいい。3~7キロ級を中心に釣れる。それでも乱獲はしない。豊かな海を守るため、限りあるマダラを守るため、楽しく釣れる釣り場を守るため。実釣してきた。

 「いい磯があるんですよ。小名浜は港がら、ずーとダラダラと緩やかに深ぐなってぐ。船で2時間半。時間はかかっけどよ、いい磯なんだ」

 第八光勝丸の松原光平船長(52)が顔をクシャクシャにして、うれしそうに話した。小名浜港の漁師は、海の中でマダラの生息している「根」のことを「磯」と呼ぶ。水深約260メートル。確実にマダラが釣れる「磯」がある。

 東日本大震災から5年半が経過した。福島というだけで「魚は大丈夫なんですか?」と誰かれなく問われた。水揚げされた魚は、福島県が魚体検査をして、放射性物質の残留値を厳しく調べている。現在も続いていて、小名浜沖のマダラは「大丈夫」とのお墨付きが出ている。

 「それでもよ、ダメなんだ。印象が悪りぃみてぇだな。いいマダラがとれるんだ。魚をみてもらえりゃ、わがんのになぁ」

 松原船長が薄く笑った。

 夏が終わりを告げ、空にはいわし雲が群れてくるこの時期、オスには白子が入ってくる。マダラの大きさは、平均3~4キロ。ときには6~8キロ級が交じる。

 取材した日は東京から3人の客がきた。常連の太田潔志さん(66=大田区)は「もう、マダラをやって15年ですね。ほかでもやるけど、ようやく小名浜港が復活してくれた。待ってたんだよ」と仕掛けをセットしながらニヤリと笑った。

 太田さんに誘われて4年前から釣りを始めた石川恵一さん(61=江戸川区)は「それまで釣り経験がなくて、いきなり深場の釣り。でも、深海から何が飛び出すか、想像しただけでも面白い。ハマってます」と話し、その隣ではマダラ初挑戦の福光昌行さん(70=大田区)も「いいね、ドキドキするね」と目を輝かせた。

 うねりなし。晴天。乗船した誰かの行いがよかったのか、鏡のような海面、ベタナギだった。

 事前に松原船長に聞いて、仕掛けをつくってみた。5本バリの胴付き(一番下のオモリで全体をピンと張って縦方向の釣りに適した仕掛け)で、オモリはなんと300号。オモリと道糸をつなぐ幹糸は20号。枝ス5本は12号で45~50センチ、間隔は約1メートル。枝スごとにミツマタサルカンできっちりと結んでいく。ハリは懐の深いムツ22号。すべてが規格外の強さだ。

 最低でも、この仕掛けは2組つくっておきたい。仕掛け投入はトモ(船尾)から順番に落としていく。投げ入れたら、隣の人に合図を送り、順次投入される。互いの仕掛けが絡まないように工夫された投入方法だ。

 その仕掛けをたぐってくると、たいてい絡んでしまうため、次に投入する仕掛けをあらかじめ準備しておいて、取り込んだら、セットしておいた仕掛けにつなぎ直す。だから、最低でも仕掛けは2組必要なのだ。

 第八光勝丸にはルールがある。容量80リットルまでのクーラーボックス1個しか持ち込めない。

 「すんげぇ、魚はいる。5年放っておいたがらさ。だから、ってよ、際限なく釣りきっちまっだら、いなくなっちまうべよ。人が食える匹数にすべぇよ」

 この日も仕掛けを投入したのは7回だけ。それでも太田さんは23匹、初めての福光さんも13匹、石川さんは8匹だったが、メヌケ4匹、ドンコ1匹と大漁だった。タコボウズ記者は取材もあったので投入2回。それでもマダラ7匹。投入すれば、ほぼ釣れる。

 この日の最大は石川さんの6・5キロで「いやぁ~、デカい。こんな大物が簡単に釣れる。また来ちゃうね、これ」と笑いが止まらない。福光さんは「いいんですかね。初めてなのにクーラー満杯ですわ。福島の海はすごいね」とえびす顔。

 年内はずっとマダラを狙う。年が明けると赤いメヌケと大きな沖メバルが待っている。【寺沢卓】

 ▼船 福島・小名浜港「第八光勝丸」【電話】090・2600・5664。集合は午前4時30分、同5時出船。交通や料金など詳細は松原船長に要確認。