美しき浅瀬が戻ってきた-福島・相馬市の松川浦、風光明媚(めいび)で知られる東北地区を代表する浅瀬エリアだ。そのほとりにあるのが旅館「賀都屋(かどや)」。遊漁船「明神丸」を所有していて、今の時期だとカレイ五目、そして一升瓶級のアイナメと遊ばせてくれる。福島の豊かな海に触れて、うねる波にまみれてサオを出してきた。

 相馬の海は、無情だった。吹きすさぶ風に船の横に直撃するうねり。体の芯(しん)まで冷え込んで、東北の寒さに心まで震えた。

 釣りをする状態ではなく、明神丸の佐藤正明船長も「もう、しょーがねぇな。帰ろ」とボソリと船内アナウンスでつぶやいた。巻き上げた仕掛けに左トモ(船尾)から2番目の常連さんに魚が付いていた。

 「波が荒くてアタリに気付かなかった。でも、でっけぇねぇ。ここの魚はこんなんばっかりだ」

 アイナメだった。関東地区では、ある程度の大きさには「ビール瓶」という称号をつけたりするが、これは違う。まさに一升瓶だ。

 「海さえ良けりゃね。カレイもアイナメも、釣ってもらえたのに。こんな日もあります」と佐藤船長は、波間に消えていきそうな小さな声で話し、薄く笑った。

 日本テレビの人気番組「ザ!鉄腕!DASH!!」にレギュラー出演する木村尚さんに同行してもらった。誘い文句は「福島のアイナメに合いにいきませんか?」だった。すぐに「もちろん、行きます」と返ってきた。東京湾再生活動に力を入れる木村さんにとって、アイナメはキーワードの1つになっている。

 木村さん ちょっと前まで東京湾ではアイナメがいっぱい釣れた。再生のバロメーターになる魚。本場・東北のアイナメはぜひ見ておきたい。いや、釣ってみたい。

 出船前日、明神丸を保有する旅館「賀都屋(かどや)」に宿泊した。夕食のテーブルを飾ったのは、アイナメの塩焼き。しかもまるまる1匹。

 木村さん デカいね。立派なアイナメですね

 ブラックバスのように口に親指を差し込んで、焼いたアイナメを持ち上げた。

 木村さん できれば、このサイズを釣り上げたい。どんなに寒くても、どんなに荒れていても、この魚がいると思えば、サオを出していてもツラくないかも。

 そのアイナメへの思いが凍(い)てつく海に乗り出す釣行につながっている。

 結局、木村さん、アイナメには合えなかった。

 木村さん でも、相馬には松川浦という素晴らしい浅瀬がある。魚を育てる地盤ができている。もっと相馬の海は注目されてもいいですね。本当にいいなぁ、相馬。

 沖で吹き荒れていた風は港に戻ってきて、そよ風になっていた。「また、来ないとね。相馬に宿題を残してしまいましたね」と木村さんはポツリとつぶやいて、たばこの煙をくゆらせた。【寺沢卓】

 ▼宿 相馬「賀都屋明神丸」【電話】090・2609・6022。出船午前4時30分で7000円。エサは出船前でも開いている「まつかわ釣具店」で。現在、今年いっぱい女性と高校生以下限定で全魚種対応の船釣りダービーを開催。詳細は佐藤船長に聞いてください。