東京湾で、ライトタックル(LT)で狙うクロダイ釣りが面白い。乗っ込みの時期を迎え、千葉・内房にある保田「村井丸」(村井智博船長=54)では、40~50センチの良型が上がっている。沖で狙うのは全国でも珍しいが、こちらでは春から初夏にかけて、おなじみの定番だ。海底近くをはうように泳いでいる獲物をうまく誘えば、型をみられる。マダイと同じ三段引きも味わえ、連休明けまで楽しめる。

 精悍(せいかん)な黒い魚体のクロダイが、海面を割って姿を見せてきた。保田沖の水深30メートル前後。釣り人のサオを何度も絞り込み、船中に取り込まれた。

 左舷トモ(最後方)で山田重雄さん(69)が開始早々に釣り上げる。右舷トモでも常連の武藤篤さん(44=会社員)も続いた。

 午前6時の出船直後、船のミヨシ(最前方)からトモにかけて上潮が流れていた。仕掛けが流される。武藤さんは1度40号のサニービシを底まで着けると、糸フケを取って道糸を張る。コマセを振り出して1メートル巻き上げ、さらにコマセを振り出す。また1メートル巻き上げてコマセを出し、1メートル巻き上げると、再度サニービシを落として同じ動作を繰り返した。「こうすると正しいタナ(魚の遊泳層)が取れます」と強調した。

 コマセの煙幕の外で、付けエサのオキアミを底スレスレに漂わせる。これが基本。時折、サオをゆっくりアオって「聞き合わせ」して誘う。この後に揺れ落ちてくるエサを、クロダイが食う場合もあるからだ。

 武藤さん、50センチの大型を釣り上げたかと思ったら、次は40センチ級が2本の針に一荷で掛かってきた。「とにかくコマセと誘いがこの釣りの基本。結果につながります」。わずか1時間足らずでの本命ゲットに笑いが止まらない。

 そんな爆釣モードの左で、LTクロダイは「初釣戦」の本紙釣り速報担当のナベクミこと、渡辺久美子さんが武藤さんに教わりながら、サオを出していた。防波堤での落とし込み、フカセで釣った経験はある。沖は初めてだ。

 「コマセをキチンと振って出す。ハリス(長さは4・5~6メートル)の半分など巻いて、オキアミが底で漂っているイメージを持ってください」。

 武藤先生のアドバイス通りに誘っていると、午前7時半ごろにサオが絞り込まれた。取り込まれたのは40センチクラス。10時前にも同型を追釣した。「最初は手探りの状態でしたが、パターンがつかめるとしっかり針に掛かってくれる。楽しかったです」と獲物を見つめた。

 ナベクミの左で取材をしていた記者も、8時すぎに置きザオで40センチサイズを確保。しっかり三段引きを堪能した。

 村井船長は、「40センチ以上の良型が例年よりそろっている」と言う。スタートは例年より半月ほど早めの3月下旬から。「冬場のLTアジやウイリー五目でも食ってきたので、専門で狙い始めた」と説明する。乗っ込みは来月半ばあたりまで。今が旬です。【赤塚辰浩】

 ◆クロダイ 北海道南部から日本列島などで分布し、全長は平均30~40センチ。最大70センチを超える。関西を中心に「チヌ」という別名が使われる。釣り人の間では、50センチ以上を「年無(としなし)」、60センチ以上を「ロクマル」とも呼ばれる。マダイに比べ、口が前に突き出ている。タイ科の大型魚にしては珍しく、水深50メートルより浅い沿岸域の岩礁地帯から砂地の底でも生息する。河口の汽水域にも入ってくる。成長するにつれて、オスからメスに性転換するものもいる。何でも食べる「悪食」で釣り餌として、ゴカイ、カニ、エビ類からトウモロコシ、スイカなどが用いられる。

 ◆乗っ込み(のっこみ) 淡水のマブナ、海のマダイ、クロダイなどが産卵前に盛んな食欲を示しながら、浅場に群れで集まることをいう。釣りにも最適のシーズンで、サイズが大きいだけでなく、数も伸びる。

 ▼船 保田「村井丸」【電話】0470・55・1121。出船6時、沖上がり12時半。氷・コマセ付き9000円。http://www.muraimaru.co.jp