巨人小林が侍になった。第4回ワールド・ベースボール・クラシック(WBC)で一躍、時の人として注目を浴びた。7試合に出場し、チームトップの打率4割5分をマーク。打点6、3犠打。大会前は本人ですら想像しなかった数字を残した。期待値を決めるのは、昨季の成績からだろう。だが、小林は1月にグアムで“特訓”を積んできた。師匠と慕う阿部のもとで合同自主トレを行った。その成果がさっそく数字で表れたという可能性が高い。

 成果を導いたのは技術的な要素だけとは限らない。超短期決戦。極限の緊張感が続く。開幕スタメンマスクをかぶった7日キューバ戦の試合直前“スマホ”が鳴った。阿部からだった。「自分の思い通りにやれ。悔いがないように。大丈夫。勝てるから。ピンチになったら内角をばしばし攻めろ。打席では当たっても塁に出るんだというのを出していけたら、自然と打てる。それだけだ。極限まで緊張していけ」。大躍進の始まりを後押しするメッセージが届いていた。

 3月10日の中国戦。まさかの1号2ランが飛び出した。「阿部さんみたいにはなれないけど投手を助けるためにも打てる捕手になりたい」。前回大会で日本代表チームの4番を務めた阿部の力は打席でも助けになっていた。グアム自主トレ中に「これで振り込め」と、阿部から手渡されたバットは自分の愛用するモデルよりもヘッドが効いていて重い。キャンプ中も今大会も試合前の打撃練習で振り込んできた。

 「感謝しかないです。こんな僕に一生懸命、いろんな経験を伝えてもらっている。何が何でも結果を出したい。必死に泥臭くやるだけだと思う」。侍ジャパンのラッキーボーイで丸刈りの女房役は、師匠のためにとは言わない。ただ、師弟関係の絆は、また一段と強くなったはずだ。【巨人担当=為田聡史】