世代交代とは単なる若返りではない。チームを去ったベテランの遺産は、若い選手へと確実に受け継がれていく。10月3日、巨人の今季最終戦(ヤクルト戦)で、象徴的なシーンがあった。

 この日3安打猛打賞のドラフト1位、吉川尚輝内野手(22)が3回にプロ初盗塁を決めた。一塁では左手の手袋を外して素手で持ち、力みのない構えから絶好のスタート。一直線に走り込み、楽々と二塁へ左足スパイクを突き刺した。「思い切っていけました」と振り返った盗塁は、今季限りの引退を表明した片岡治大内野手(34)から授かった技術だった。

 今年の2月、お互いに3軍でキャンプをスタートしたことで接点ができた。4年連続盗塁王から教わったスライディングの極意は「近く、低く、速く」。プロ入り前の吉川尚はベースの2メートル以上手前から飛び込んで減速しており、50メートル5秒7の俊足を完全には生かせていなかった。斜めだった走路も真っすぐに矯正。二盗のタイムは平均で0秒1前後も縮まったという。素手で手袋を持てば地面に手をつかず、故障の予防になることも教わった。

 「片岡さんからは、本当にたくさんのことを学ばせていただきました。3軍キャンプに行っていなければ、直接教えていただけることもなかった。ありがたいです」。ドラフト1位指名を受けながらの3軍キャンプは屈辱のスタート。それを前向きに捉えなおし、最終戦で3安打1盗塁を記録できたのは、ベテランとの出会いがあってこそだった。2月当時の片岡は「俺は何も教えてないよ」と謙遜したが、巨人の未来を背負う才能に無形の財産を残した。【巨人担当=松本岳志】