ちょうど1年前、2017年3月19日の日刊スポーツ東京本社最終版1面に、今季から巨人に復帰した上原浩治投手(42)が登場している。

 カブスがオープン戦をしていた米アリゾナ州グレンデール。WBC準決勝を控えた侍ジャパンも、同地を借りて練習した。登板前の上原をクラブハウス前で見つけた。ゴルフカートの後部座席に大きな体を折り曲げて、練習を終え引き揚げてくる侍たちを励ましていた。

 -お~い!

 お前…なんでおる? 侍の取材? 落ち武者か。

 -別に落ち武者じゃないけど。グラウンドに顔出さないんですか?

 練習の邪魔になるから。知らない選手も多いし。大事な試合を前に、余計な気を使わせても。

 -じゃ、侍ジャパンにメッセージを。アメリカ戦は菅野が先発です

 そんなのいいよ。

 -ダメです。国際試合で無敗でしょ

 ……菅野は大丈夫。登板を映像で見たけど、アイツはすごい。東京ドームから屋外球場になって、もちろん乾燥や気温の違いもある。アリゾナと、準決勝をやるロサンゼルスは、また違う。でもボールや球数制限なんかを気にして、神経質になってはいけない。とにかく自分のピッチングに集中すればいい。自分のボールを信じて、勝負すれば大丈夫だから。

 「金言」として1面に載った。10年ほど前に担当していたころは、日々こんなやりとりをしていた。久々でも上原は、間合いというかこちらの都合というか、もろもろを理解してくれたようだった。

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 登板後、カートに座って雑談した。上原は「体にいいから。投げたらこれよ」とヨーグルトを食べていた。転戦、連戦。自己管理が身に付いているのだと思った。

 -こっち来て何年に

 9年目。早いなぁ。

 -元気そう

 状態はいいよ。もう少し頑張りたい。通算100ホールドが見えている。100勝、100セーブ、100ホールド。全部達成したらキリがいいでしょ。今はそこを目標にしてる。

 -へぇ。すごそうだけど…過去にいるんですかね

 どうだろ。日本では、いないんじゃないかな。100勝、100セーブの先輩は聞くけど。

 -確かに。いつごろになりそうで?

 夏くらいにはなぁ。ケガなくやってな。

    ◇  ◇    

 翌日、侍ジャパンは同じアリゾナ州のメサでカブスと練習試合を行った。登板予定のない上原は、カ軍が誇る広々とした天然芝を1人、走り込んでいた。球場、サブグラウンドを何面も備えているが、マイナー選手は所狭しと押し込まれ、メジャーリーガーは独占できた。

 -ものすごい選手の数

 若手は夢がある。夢があるのはいいことだ。みんなメジャーを目指して必死に競争してる。シンプルで分かりやすい競争。負けないようにやらないと。

 -相変わらずよく走る。暑いのに

 前から言ってるでしょ。走れなくなったら引退する時。だからまだ大丈夫。こっちは走る習慣があまりないけど。オレは変えられない。走るのは大事。お前、侍ジャパンの取材はいいの? ヒマなの?

 -なら戻りますよ。100ホールド、楽しみにしてます。

 いつも適当でいいなぁ。じゃあな。

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 あと10ホールドで「100、100、100」に届く。分業制が確立された現代のプロ野球にあって、投手の持ち場をコンプリートする。1年前はかなり適当に聞き流したが、冷静に考えたら比較対象もない、どえらい記録。突出した技術と執念のたまものであり、上原に続く「太く長く」の投手が出る可能性は極めて低い。

 日米でコツコツと積み上げてきた苦労と努力の軌跡。ついえないで本当に良かった。【宮下敬至】


 ◆宮下敬至(みやした・たかし)99年入社。04年の秋から野球部。担当歴は横浜(現DeNA)-巨人-楽天-巨人。16年から遊軍。