元ロッテの里崎智也氏(野球評論家)の「ウェブ特別評論」を掲載中。20回目は「空振りのバットが捕手の頭部に当たるのは、どちらが悪いのか」です。

 先日、ヤクルト・バレンティンの空振りしたバットが一周回って捕手の頭部を直撃するアクシデントが立て続けに起きた。

【ケース1】

<中日2-5ヤクルト>◇7月24日◇ナゴヤドーム

 5回2死一塁。ヤクルト3番バレンティンへの3球目、空振りしたバットがそのまま杉山捕手の頭へ。当たった瞬間、杉山はホームベース付近で倒れストレッチャーで負傷退場。頭頂部からは出血。救急車で愛知・長久手市内の病院へ運ばれ検査した結果、脳に異常はなく左頭部の打撲と切傷と診断された。

【ケース2】

<ヤクルト4-16広島>◇8月2日◇神宮

 1回2死一、三塁の場面。広島先発ジョンソンが1ストライクから投じた2球目。低めのボールにヤクルト・バレンティンがスイング。打球はバックネットへのファウルとなったが、片手でフォロースルーをとったバットは石原捕手の頭部を直撃。石原はその場で倒れ込み担架で退場。救急車で都内の病院へと向かい検査の結果「脳振とう、後頭部打撲」と診断された。

 2人の負傷した捕手には気の毒だが、どっちかというと捕手が悪い。いずれのケースも打者にルール違反はない。もちろん、故意的にやったとなれば大問題だが。

 捕手は少し後方に下がって捕球したり、グラブをはめた手を前に出して捕球するが、頭は前に出さないとかと対処しようがある。

 捕手が下がれば、投手から遠くなるとか、ワンバウンドの捕球が難しくなるとか、盗塁を刺す際に不利になるなど、いろんなデメリットが考えられるかも知れない。しかし、1メートル、2メートルも下がるわけではなく、特定の打者に限定されるため、そこまで不利益はないだろう。

 見たところ外角球で“事件”は起きず、打者寄りの真ん中から内角を攻めた場合に起きているようだ。

 プロである以上、フォロースルーが大きく頭部に当たる可能性があると判断すれば対処しなくてはならない。

 ロッテの元チームメートでバレンティンにも負けじとフォロースルーの大きいホワイトセルがいた。バレンティンと同様のアクシンデントが3度ほど起きたが、最後は捕手が対処した。

 捕手はバットの当たる位置に構えておかねばいけない、というルールはない。

 捕手心理に立つと少しでも前で捕球したいという気持ちは理解できる。ベースの上で捕球したいという選手もいるかも知れないが、打者に当たらない位置まで下がるのは自分で調整しなくてはいけない。

 打者にしても、捕手にしてもヘルメットのおかげで、どれだけ軽傷ですんでいるのだろう。

 幼いころテレビで帽子のつばを後ろに向けていた捕手を見た気もするが、冷静に考えると恐ろしい。

 2009年のWBCで元マリナーズの城島はグラブを持った左手首にサッカー選手のすねあてのような防具をつけていた。バットが当たる最悪の事態を想定していたのだ。

 バットが捕手に当たったという情報を少しでも伝え聞いたら、対処して当然。

 WBCの私の体験談で言えば、キューバにスイングでフォロースルーの大きい選手がいたイメージがある。来年のWBCで万が一、捕手の頭部にバットが当たって負傷帰国などとなれば「やられ損」。チームにとっても痛手となり、目も当てられない。

 ◆里崎智也(さとざき・ともや)1976年(昭51)5月20日、徳島県生まれ。鳴門工(現鳴門渦潮)-帝京大を経て98年にロッテを逆指名しドラフト2位で入団。06年第1回WBCでは優勝した王ジャパンの正捕手として活躍。08年北京五輪出場。06、07年ベストナインとゴールデングラブ賞。オールスター出場7度。05、09年盗塁阻止率リーグ1位。2014年のシーズン限りで引退。実働15年で通算1089試合、3476打数890安打(打率2割5分6厘)、108本塁打、458打点。現役時代は175センチ、94キロ。右投げ右打ち。

(ニッカンスポーツ・コム/野球コラム「サトのガチ話」)