「キャ~!」。24日に第89回選抜高校野球大会の初戦を突破した静岡の一塁側アルプス席に、喜びの叫びが何度も響いた。発信源では周囲を見渡し、1人の女子高生が両手を合わせて「すみません!」と頭を下げている。学ラン姿で応援団の最前列に陣取った香焼(こうたき)梨沙応援団長(2年)の動きは、常にあわただしかった。

 聖地で躍動するナインのプレーに、思わず素の一面が出てしまう。だが、本来の役割はバス20台で駆けつけた応援団をまとめ上げることだ。香焼は56代目にして静岡史上初の女子応援団長。「緊張で(指示の)伝え漏れがあったり…。でも、どんどん声援のボリュームが大きくなっています!」。不来方(岩手)を圧倒した2時間2分で、要領を徐々につかんだ。

 1960年創部の応援指導部はかつて20人以上の部員がいたが、現在は香焼ただ1人。香焼は1年春の静岡商との定期戦で、球場を盛り上げる先輩団員の姿に憧れて入部した。遠くへも行き届く声は、小学校高学年時に3年間取り組んだミュージカル仕込み。「発声や、人前で話をすることには自信があるんです」。試合終盤になると、手を合わせる数も減ってきた。

 第3試合ながら午前4時起きで、静岡から向かった甲子園。テレビで憧れ続けた舞台は「緊張もあるけれど、それ以上にワクワクが大きい」場所だった。女子マネジャーの練習参加が条件付きで認められた今大会。1896年創部の古豪においても、1人の女子高生が新たな歴史を刻んだ。

失敗を思わず謝る静岡の香焼(こうたき)梨沙応援団長(前列)(撮影・松本航)
失敗を思わず謝る静岡の香焼(こうたき)梨沙応援団長(前列)(撮影・松本航)