プロも世間も注目する怪物スラッガー、早実の清宮幸太郎内野手(3年)が今回、高校野球春季関東大会に見参。予想以上のフィーバーで、ハプニングも連発だった。初日の騒動を追った。

 5月21日の日曜日、早実は茨城・ひたちなか市民球場で、午前9時から試合開始予定だ。しかし、記者も何時に球場入りしていいか、清宮人気で未知の領域だった。最寄り駅は勝田。午前5時すぎ、駅前にタクシーはない。電話で呼ぼうとすると「すでに予約でいっぱいです」。えッ?…。恐るべし清宮人気。甘かった。前日から関係者、ファンらが予約を入れていたのだろう。バスも使える様子はない。「やばい」。急に不安を覚えた。

 タクシー乗り場に行くと、すでに3人並んでいる。高校野球ファンらしい様子だ。しばらく待っても、タクシーが来る気配はない。並んでいる4人で、「一緒に乗って球場まで行きましょう」という話になった。しばらくして、ようやくタクシーに乗ることができた。先に並んでいた人が乗り込むと、座席に財布が落ちている。運転手が「前のお客さんですね」。その人も、球場まで行ったらしい。「困っているでしょうから、球場に届けてもらえますか?」と運転手。「わかりました。届けます」。高校野球ファンに悪い人はいない。運転手は「今日は10往復ぐらいできるかなあ。本音を言うと、早実にはずっと勝ち残って欲しいね」。ちょっとした清宮経済効果だ。

 午前6時前、ひたちなか市民球場に着くと、内野席が観客で埋まり始めている。球場は「清宮フィーバー」対策で、センター後方に特設の入場券売り場を9カ所設置。午前7時半から入場券販売予定としていたが、急きょ深夜2時45分に球場駐車場を開いた。一時、センターから球場正面まで、長蛇の列が続いた。

 茨城県高野連関係者は「後にも先にもこんなことはもうないでしょう。関係者は1カ月前から、徹夜続きで準備してきた」と語った。疲れ切った表情で「ブラックだよ」と思わずぼやきも出る。地方球場の小さな記者席は、スポーツ紙、一般紙、一般紙の支局、地元紙、通信社の記者でごった返す。プロ野球や五輪などのビッグゲームとは種類が違うが、まさに記者のるつぼだ。パソコンや通信機器、カメラや資料、スコアブックで室内も机の上も満杯状態だ。

 清宮は、というと大したものだ。フィーバーの中で注目を浴びながら、悠然とチームを率いて球場入り。大物感たっぷりだ。場内は、路上駐車を注意するアナウンス、「間違って自転車のチェーンを他の人にも巻いている方がいます」と思わず笑ってしまうアナウンスもあるなど、清宮人気のなせるわざ? で様々なハプニングが起こっていた。

 試合は、というとここに書くまでもなく、大活躍だった。この日の2回戦、花咲徳栄戦では6打数4安打3打点。5回裏1死、清宮は弾丸ライナーで右翼芝生席に飛び込む高校通算94号の驚異の1発を放った。6-7とリードを許した9回裏では、土壇場で打席が回ってくる。「やっぱり見せ場が回ってくるんだよなあ、持ってるよなあ」と記者席から本音が漏れる。見事な左前打で同点に追いつき、結果も出した。さらに延長戦は、無死一、二塁のタイブレークから始まり、打順はチームで選択できる。花咲徳栄は10回表に2点を入れた。早実は10回裏、3番清宮の直前、2番から打順選択した。「そうなるよなあ」とまたも記者席から本音。清宮はここでも本領発揮で、右前打で1点差に詰め寄る。4番野村が2点適時サヨナラ二塁打で試合終了。記者席、ベンチ裏が一気に慌ただしくなった。

 試合後のインタビューでは、相手の花咲徳栄の岩井隆監督も清宮の打撃に驚きを隠せなかった。「早実だから、野手を右に寄せて“王シフト”を敷いた。外野4人、というのも考えたんだけど…。上を越された。シフトは関係なかったね」と語った。「プルヒッターだと思っていたが、とにかく打撃が柔らかい。柔らかいんですよ」。強豪校の名将も、噂にたがわぬ清宮の打撃に舌を巻いていた。

 帰りも、球場周辺は大渋滞。あらためて清宮フィーバーを実感した1日だった。

【メディア戦略本部・栗原弘明】

ひたちなか市民球場に集まった観衆(撮影・江口和貴)
ひたちなか市民球場に集まった観衆(撮影・江口和貴)
5回裏早実1死、右越えソロ本塁打を放つ清宮(撮影・江口和貴)
5回裏早実1死、右越えソロ本塁打を放つ清宮(撮影・江口和貴)