高校野球の現場で女性の活躍を目にすることが珍しくなくなっている昨今。宮城に2人目の女性部長が誕生しました。涌谷(わくや)の阿部奈央部長(24)。15日の初戦、宮城水産戦を8-1で制し「就任初の夏1勝」を果たしました。「素直にうれしいです!」と破顔一笑で第一声を聞かせてくれたあと、すぐに球場の入場券発券作業に走っていきました。

 部長として臨む初めての夏は、喜びの時間は一瞬。17日の3回戦で惜しくも敗退しましたが、大会運営の仕事で球場を走り回る毎日を送りました。

 高校時代は石巻野球部の女子硬式野球選手。中学時代ソフトボール部で鍛えた精神力で、高校野球を全うしました。当時はマネジャー業も兼務し、実務的な仕事に加え、ノックの技も磨いていった阿部部長。早坂憲人監督(33)のサポート的な立場で春の地区大会試合前シートノックも行い、グラウンドからも選手を叱咤(しった)激励しています。

 母は小学校教員。父の輝昭さんは石巻北で監督を務めています。幼い頃、生き生きと働く両親の姿を見て、自分も教員の道へ進もうと思ったそうです。高校卒業後は東京女子体育大へ進学。高校講師の経験を経て、この春、念願の体育教員に就任しました。

 選手からの呼び名は「ナオ先生」。阿部佑衣捕手(3年)に聞くと「とても優しくて、怒られたことはありません!」。年齢的には「お姉さん的」世代ですが、阿部部長は「部長の仕事は環境づくり。監督が試合で采配をふるいやすいような準備を作るのが役目です。監督に厳しいことを言われて選手が落ち込んでいる時に“これはこういう意味で言っているのよ”とフォローできるような部長でも、ありたいと思っています」と使命感に燃えています。

 「男性社会」の色がまだ濃い野球界の中で、阿部さんは女性ならではの目線も大切にしています。期待しているのは女子マネジャーの存在価値。「選手の一人という責任感を持って、もっと確立して欲しいですね」。室内練習場で練習した時のこと。他の部活の選手の靴がそろっていないのを見過ごしていた野球部の女子マネ。「そういう所にも気づき、サッとそろえるくらいの目配りが欲しいですよね」。女子マネの指導も、選手の指導と同じようにやる。女性だから言えることを“時に厳しく”指導するのが目指すスタイルです。

 先日の練習試合のこと。相手校の女子マネジャーが、ノックを打つ阿部部長を見て「あんな教員になれるよう目標にしたい」と言っていたのを伝え聞いたとか。「そういう話を聞いて、私も刺激になりました」。悪戦苦闘する新米女性部長の姿が、次世代の「本気野球女子」たちの夢へと、つながっていきます。【樫本ゆき】

 ◆樫本ゆき(かしもと・ゆき)1973年(昭48)2月9日、千葉県生まれ。94年日刊スポーツ出版社入社。編集記者として雑誌「輝け甲子園の星」、「プロ野球ai」に携わり99年よりフリー。九州、関東での取材活動を経て14年秋から宮城に転居。東北の高校野球の取材を行っている。