清宮率いる「ミラクル早実」が難敵を打ち破った。早実(東京)が延長10回の末、明徳義塾(高知)に5-4で逆転勝ち。2点を追う9回2死一、二塁で主将の3番清宮幸太郎内野手(3年)が四球を選び満塁とすると、野村大樹内野手(2年)の押し出し四球で同点。10回2死三塁から9番野田優人内野手(2年)の中前適時打で勝ち越した。清宮は本塁打はなく4打数1安打も、主将の振る舞いで勝利を引き寄せた。2回戦は東海大福岡と戦う。

 1点差の9回2死一塁、清宮が次打者席に向かうと、歓声の音量が最高潮に上がった。3-2から、横山が放った打球は投手正面のゴロ。和泉監督が「万事休す」と思った瞬間、明徳義塾・北本が落球した。清宮は「流れが来た。勝てると思った」。清宮、野村が連続四球を選び、絶体絶命のピンチから追いついた。

 清宮の独特な思考が“ミラクル”な反撃を導いた。8回、4番谷合にリードを2点に広げられる1発を浴びた。普通なら、意気消沈するが、清宮は昨秋の都大会決勝で日大三・金成に9回に勝ち越しの2点打を浴びた場面を思い出した。

 清宮 1点も2点も同じ。金成君に打たれた時のような感じでいいじゃん、と思った。

 8回を終え、ベンチ前の円陣で和泉監督からも「谷があれば山もある。まだチャンスはある」と言われた。清宮は「全部やり切って、出し切るぞ」と鼓舞した。スローガン「GO!GO!GO」を叫びながら、主将の思いを、言葉をチーム一丸で体現した。

 早実野球の真骨頂だった。延長10回2死三塁、伏兵の9番野田が中前適時打を放ち、試合を決めた。殊勲打の野田に、清宮は「本当にありがとう」と頭を下げた。自身は1回に中前打を放ったが、2~4打席は「全部、打ち損じた」と凡退。注目された敬遠もなく「(あるとは)思ってないです」と笑った。

 2日前の夕食、グラウンド外でも、場の空気を1つにする「早実スタイル」を実践した。エース服部がホテルの食堂横にあるピアノでセンバツ行進曲の星野源の「恋」など2曲を演奏し、盛り上がった。この日の早実ナインは「恋」の陽気なダンスのごとく、土壇場で躍動した。

 劣勢の展開に見えても、清宮は「自分たちはそうでもなかった。そんな考えも浮かばなかった」と一掃した。だが、延長戦での辛勝には「心臓に悪い試合でした」とさすがに苦笑した。2回戦は「豪(GO)快」に突破する。【久保賢吾】

 ◆57年Vは1点差発進 早実は57年のセンバツ優勝時、1点差勝利でスタートしている。初戦の寝屋川戦で2年生エースの王貞治が被安打1、スコア1-0で完封した。

 ◆試合終了一転 終了の場面で敵失による命拾いは、10年夏1回戦の仙台育英-開星戦でも見られた。1点を追う仙台育英の攻撃は9回表、2死満塁から平凡な中飛。開星の投手白根(現DeNA)はバンザイをして整列に並びかけたが、中堅手がまさかの落球。2者生還で逆転となった。