ポスティングシステムでメジャー移籍を目指す菊池雄星投手(27)の代理人を、スコット・ボラス氏(66)が務めることになったことで、久しぶりに同氏の名前が日本メディアにも登場するようになりました。日本球界、またはファンにすれば、有力代理人といえば、押しが強く、高額の契約を要求するような印象が強いのかもしれません。確かに、それらのイメージは、当たらずとも遠からず、なのかもしれません。ただ、「剛腕」「らつ腕」などと表現されるボラス氏の場合、決してそれだけではありません。

そもそも代理人とは、選手に代わって、金銭や諸条件の交渉を進めるのが役割ですから、難航すればするほど、批判の「矢面」に立つのは当然です。ただ、選手が自らの夢を追いかける一方で、代理人は球界全体の市場を見極めながら、各選手の価値、相場を客観的に分析する必要もあります。つまり、選手が直接言えないような主義、主張、要求を、余すことなく球団側に伝え、粘り強く交渉していくのが代理人の仕事というわけです。そこに代理人の価値があり、極端に言えば、嫌われることを覚悟で、時には「悪役」に徹することもあるわけです。

「タフ・ネゴシエーター(手ごわい交渉人)」と呼ばれるボラス氏の場合、その仕事ぶりは、「プロ中のプロ」と言っていいでしょう。最終的には契約交渉業務が重大案件ですが、同氏が管轄する事務所は、一大企業と言っても言い過ぎではありません。交渉に立ち会う幹部をはじめ、スカウティング、トレーニング、マーケティング、データ分析、会計、資産運用など、約100人前後の人員を持つエージェントは、そう多くはありません。しかも、同社の主義としてアメフット、バスケットボールなど他競技には、一切関わっていません。

つまり、野球オンリー。

選手がより良い条件、環境でプレーできれば、野球界全体の発展につながるという理念を持っています。

かつてボラス氏は、熱っぽく語りました。

「野球に限定し、フォーカスすることが、わが社のやるべきこと。しっかりとした仕事をしていれば、他から利益を得ようとは思っていない」。

昨年、日本を訪れ、本場の高級すしを堪能し、すっかり日本通になったこともあり、昨今のボラス氏は、日本人記者と出くわすたびに、少しばかり不格好ながらも、丁寧な「お辞儀」を繰り返すようになりました。

「日本人ほど、相手を尊重し、謙虚で美しい文化はないと思う。サムライ(侍)の精神を、もっと知りたいと思うよ」。

10球団前後と見込まれる菊池の争奪戦。

強硬か、謙虚か-。

ボラス氏がどんな着地を描いているのか。交渉の結果だけでなく、その過程も興味深いところです。

【四竈衛】(ニッカンスポーツ・コム/野球コラム「四竈衛のメジャー徒然日記」)