プレーバック日刊スポーツ! 過去の5月25日付紙面を振り返ります。2001年の1面(東京版)はメッツ新庄の逆転決勝4号2ランでした。

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 【モントリオール(カナダ)2001年5月23日(日本時間24日)】もはや主軸の活躍ぶりだ。ニューヨーク・メッツ新庄剛志外野手(29)がエクスポズ戦の6回、逆転の4号2ランを放った。初めて5番でスタメン出場。1点を追う6回1死二塁で、左腕ピータースのカーブを右中間へ流し打った。5月はチームの9勝中、5V打目という圧倒的な勝負強さ。打率3割もキープし「スゴイ? シブイ?」と声もはずんだ。 

 自分に酔っている姿さえ、頼もしく映る。試合後、会見場に登場した新庄は得意満面だった。「よくやってるでしょう? ここまで。スゴイ? シブイ? やりゃあね、何とかなるんですよ!」。初めてポイントゲッターともいえる「5番」で起用され、いきなりの逆転決勝4号2ラン。最下位再脱出にも結びつき、ナインとともに喜びを爆発させた。

 1点を追う6回1死二塁。左腕ピータースの外角高めカーブをとらえた打球は、あれよあれよと右中間に伸びた。「抜けてくれたらいいかなって思ってたのに。気がついたら入ってました」。本人もビックリの手ごたえ“なし”。それでもスタンドインしてしまうのだから、今の新庄は手がつけられない。しかも、そのまま逃げ切られていたら勝利投手だったエ軍2番手吉井の2勝目も消した。主役の座を自らの手で奪い取った。8試合31打席ぶり、初の流し打ちアーチ。あらゆる面で、これまでのソロ3発にはない快感があった。

 前日、37日ぶりに打率を3割台に乗せた。5月の好調ぶり、チームへの貢献度は際立つ。今月の出場19試合は、53打数20安打で打率3割7分7厘。しかもこの日の逆転決勝弾は、最近「3勝連続」のV打だ。5月は早くも5本目で、チームの5月9勝のうち半分以上を新庄のバットがたたき出している。3番に抜てきされた17日パドレス戦は1安打を放ったもののタイムリーはなく、チームも3-15で大敗。だが「5番」初日は、しっかり新庄らしさを発揮してみせた。

 通算19打点もピアザの25に次いでチーム2位。リーグを見渡しても、打率3割7厘はカージナルスの4番プホルスに次ぎナ・リーグ新人2位の好成績だ。不振脱出は、中堅から右方向への打球を意識するようになってから。この日、ライトへ放ってみせた本塁打だが、右翼方向へは阪神時代には145本塁打中、わずか4本しかなかったものだ。

 「こっちの生活とか、チームの雰囲気に慣れたことが大きいですね。英語は分かんないですよ。でも楽しく試合に入っていけるムードがある。試合の10分前までトランプとかやって、音楽もガンガンに流れてたりするんだけど、始まった瞬間みんな急に態度が変わる。プロなんだなあって思いますよねえ」。高いレベルに身を置きながら、成長し続けている。

 バレンタイン監督の新庄賛歌も恒例行事だ。「新庄のホームランが大きかったことは疑う余地がない。日本でもチャンスで強い有名なバッターだろ? 実に頼もしいよ」。さらに本来の主軸トリオの名前を挙げ「調子の上がっていないピアザやベンチュラ、アルフォンソの刺激になってくれればいい」と話した。きょうからはニューヨークに戻ってマーリンズ4連戦。一層大きな新庄コールに迎えられるに違いない。 

 <一問一答>

 -今度は逆転決勝2ラン

 新庄 カーブでしたね。来たあって思って、ちょっと高かったけどうまくたたけました。きょうは「打てる日」だったんでしょう。

 -打席で考えてたことは

 新庄 同点に追いつくなら、あそこしかなかった。チャンスもそう巡って来ないし、何とか同点にしたかったですからね。初めての右打ち? NO!(日本と勘違い)。ああ、こっちではもちろん初めて。だって4本しか打ってないんだから。

 -今月の勝利打点は5個目

 新庄 今はそういう時なんでしょうね。まったく打てない時もあるし……。そりゃあ自分の成績を全然考えないと言ったらウソになるけど、チームの勝ちが一番うれしいですよ。でも特にきょうはいい勝ち方だったしね。

 <一枝修平の目>

 去年までの新庄なら、この1発は出なかった。外のカーブに対して、あれほど踏み込めなかったはずだ。なぜ打てるようになったのか。答えは日本でなく、メジャーだからだ。

 ストレート系にめっぽう強い新庄だが、フォークなどの落ちる球は全くダメ。日本では、その弱点を徹底的に攻められていた。しかしメジャーでは落ちる球が少なく、大きくタイミングを崩される心配がない。ストレートを待ちながら、せいぜいカーブ、スライダー、チェンジアップに対応すればいい。これならボールに当てることはできるし、空振りの心配はない。打席で余裕も生まれ、踏み込んでいけるから持ち味の瞬発力とパワーを発揮できる。

 日本に来た助っ人が落ちる球に苦労するケースが多いが、それと逆のパターンと思えばいい。開幕直後はボテボテやドン詰まりが多かったが、最近は打球も速くなってきた。メジャーの変化球の種類が分かってきたからだろう。踏み込める今の新庄なら、今後も右への長打は多くなる。(日刊スポーツ評論家)

 ◆新庄連日の活躍は監督の暗示効果?

 バレンタイン監督は試合後、新庄の活躍ぶりに感慨深げだった。「実は」と切り出し「キャンプ(2月下旬)の1週間目はひどかったんだ。見られたもんじゃなかったよ」。技術以前に「何より自分に自信がなさそうだった」。そこで2人きりで話をする機会を再三もち、暗示をかけるように「君は(日本で新庄をスカウトした)大慈弥が『新庄はいい。絶対成功する』と断言して、取って来た選手なんだ。私は大慈弥を信じているし、だから君は絶対いい選手なんだ」と激励したという。「あのころがウソのように、今や堂々として落ち着いている」と笑みを浮かべた。

 ◆「メッツ一の打者」米紙が称賛

 24日付の米紙ニューヨーク・タイムズは「新庄がまたメッツのヒーローを演じる」との見出しで逆転2ランを放った新庄をたたえた。厳しい両親に育てられ強い精神力が身に付いたとする新庄自身の説明を紹介。また不振から立ち直った軌跡が、昨季新人で活躍した同僚のペイトンに酷似しているとした。「現時点ではメッツで一番の好打者。これはだれも期待しなかったこと」と結んでいる。

 ◆V打メモ

 最終的にリードを奪った一打。先制し逃げ切ったときの先制打、同点からの勝ち越し打、ビハインドから逆転打がある。昨年の新庄は自身最多となる13本のV打を記録(犠飛1本含む)。月別の内訳は4月1本、6月3本、7月1本、8月3本、9月5本。8月終了時点では計8本だったが、9月に入ると10日中日戦、13日巨人戦、16日広島戦、22日横浜戦、30日広島戦で記録し、自身初の月間5V打をマークした。今月、残り8試合で自己新記録なるか。マリナーズ・イチローは1番打者ということもありV打は4月1本、5月2本。ちなみに、今年の日本ではメイ(ロッテ)が4月に5V打を記録。今月はペタジーニ(ヤクルト)とカブレラ(西武)の4V打が最多。

※記録や表記は当時のもの