阪神藤浪晋太郎投手(21)が怪投で、リーグ単独トップの12勝目だ。与えた四球はナント9つ。もちろん自身ワーストで、セ・リーグ記録にあと1つに迫る乱調ながら、12三振を奪って7回1失点。藤浪用オーダーを組んできた鯉打線を斬り、最後はガッツポーズで締めてみせた。

 藤浪は限界まで口を大きく開け、腹の底から叫んだ。福留のソロが飛び出し、1点を勝ち越した直後の7回2死二、三塁。5番田中への決め球はやはり直球だ。高め152キロの数センチ下をバットが通過。147球の藤浪劇場に幕を下ろし、「シャーッ!」と一気にストレスを吐き出した。

 「あそこで点を取られたら、福留さんに顔向けできないと思っていたので」

 1点リードの中盤、荒れに荒れた。4回は3四球による1死満塁を、すべて決め球真っすぐの空振り三振3つで耐えた。5回は2四球の1死一、二塁から2番菊池に外角低めカットボールを当てられ、初被安打となる右前適時打で同点とされた。それでも7イニングを12奪三振2安打1失点。自己最多&リーグ単独トップの12勝目を豪腕でもぎ取った。

 「晋太郎は僕よりパワーがありますからね」

 試合開始2時間前、広島前田はパワーピッチとスタミナを警戒していた。今年1月、都内の合同自主トレに初めて藤浪を招き、ウエートトレーニング系の数値に衝撃を受けた。ある日、想像を絶する厳しさのランニングメニュー後、大瀬良がトイレに駆け込み吐いた。中崎も昼食が喉を通らなくなった。そんな中、落ち着き払った藤浪に底知れぬ伸びしろを感じたという。

 「晋太郎は不器用だと思う。トレーニング1つにしても僕はすぐできても、晋太郎は時間がかかったりする。でも、器用な人は時に手を抜いてしまったりするけど、晋太郎には常に全力で取り組める良さがある」

 広島戦は試合前時点で今季3戦2敗。今回も左打者6人をスタメンに並べられたが、抜け球が多い中で「むしろ投げやすかった」。自己ワーストどころか、2リーグ分立後球団ワーストタイの1試合9与四球。一方で5回までに10三振を奪い、フェアゾーンに飛ばされた直球は犠打を除けば2球だけだった。マエケンが恐れた通り、圧倒的なパワーとスタミナでねじ伏せた。

 「悪かったから、はい、打たれました、ではダメな時期なので。チームが勝てて良かったです」

 次回は球数を考慮され、中5日ではなく中6日で10日巨人戦に向かう可能性が高くなった。「これからは何より、チームの勝ちが大事」。9月のノルマは白星のみ。藤浪が「勝負の鬼」と化す。【佐井陽介】

 ▼藤浪が12奪三振で今季9度目の2ケタ奪三振。シーズン9度以上の2ケタ奪三振は、11年ダルビッシュ(日本ハム=14度)田中(楽天=10度)以来で、セ・リーグでは98年石井一(ヤクルト=9度)以来17年ぶり。阪神では村山(59年9度)江夏(68年20度、70年12度、71年11度)に次いで44年ぶり3人目。

 ▼藤浪は9与四球。阪神で1試合9四球を与えた投手は、92年9月11日ヤクルト戦(甲子園)中込以来23年ぶり。中込は6回1/3で6安打3失点。この試合はプロ野球最長の6時間26分。阪神のゲーム最多与四球は43年11月7日三輪の12。プロ野球記録は94年7月1日野茂(近鉄)の16、セ・リーグ記録は73年松岡(ヤクルト)ら4人の10。