優勝決定試合で「神っている」42度目の逆転勝ちだ。先発黒田が1回に2ランを浴びても何のその。4回に鈴木誠也外野手(22)と松山竜平外野手(30)の連続ソロで逆転。鈴木は5回にも2ランと「神っている」ぶり全開の2打席連続弾だ。前回優勝時まだ生まれていなかった若き大砲は、マジック点灯日に左肩亜脱臼を負いながら試合に出続け、アーチを量産。広島イズムは脈々と受け継がれている。

 やっと、心から笑えた。鈴木は仲間とハイタッチを繰り返しながら破顔した。人知れず痛みとの真っ向勝負を制した先に、歓喜の2打席連発が待っていた。「正直、試合に入る前から緊張して、どうなるかと思っていました」。最後まで「神ってる」キャラを貫き、ようやく22歳の素顔に戻って照れ笑いした。

 1点を追う4回無死。カウント2-2と追い込まれながら、マイコラスのカーブをライナーで左翼席へ。25号同点ソロで続く6番松山の勝ち越し弾を呼び込んだ。1点リードの5回1死一塁ではスライダーを高々と打ち上げて左翼最前列へ。26号2ランで流れをグイッと手繰り寄せた。緒方監督が「神ってますね、やっぱり」と絶賛する大暴れだった。

 「衣笠さんになりたいんです」

 優勝マジックが点灯した夜、トレーナーに懇願した。8月24日巨人戦の3回、先頭小林誠の右翼ファウルゾーンへの飛球に飛び込んだ。左肩に激痛が走った。「やばい…」。亜脱臼だった。トレーナーは登録を抹消して治療を優先する選択肢も口にした。だが、首を横に振った。「もう、誰にも譲りたくない」。痛みを抱えながらプレーした。

 衣笠の現役時代を知らぬ22歳にも、赤ヘル魂が宿っている。若さゆえの勢いだけでも、緒方監督から「神ってる」と言われた運だけではない。ケガを押してでも出場する強い精神力が最大の武器だ。ヘッドスライディングでの帰塁を避けるためリードを狭め、スイング時にも痛みは走った。それでも翌25日から10試合で40打数20安打、打率5割、3戦連発を含む6本塁打、10打点だ。負傷した24日から、なんと15試合連続安打でゴールテープを切った。

 右翼の座を奪っても、危機感と飢餓感を持ち続けた。周囲の注目度が増せば増すほど、自分自身に「そんな選手ではない」と言い聞かせた。打席で感じたことをノートに書き記し、反省と確認を繰り返す。早出練習に姿を見せ、バットを握ったまま眠ることもある。

 あの日から18日目。左肩の痛みはもうなくなっていた。同じ東京ドームで、誰にも譲らなかった右翼のポジションで喜びを爆発させた。「信じられない気持ちと、うれしい気持ちが半分半分です。どう喜んでいいのか分からない。これが優勝なのかという感じですね」。若武者は赤ヘルの伝統を心身ともに受け継ぎ、広島の新たな時代を作っていく。【前原淳】