DeNA井納翔一投手(31)が、常識外れの戦略で今季2勝目を挙げた。0-0の6回1死一、三塁。5回まで1四球のみで、ほぼ完璧に阪神打線を封じていた井納へのサインは「ただ打て」だった。「どうか力を貸してください」。念じたバットは昨季首位打者の巨人坂本勇から譲り受けたもの。この試合、阪神藤浪がカウント球に使っていたスライダーを打ち返し、逆方向への右前先制タイムリーとなった。

 普段は商売道具ではないバットで、その回6安打5得点のビッグイニングを演出した。「(初球を)打ち損じたらバント(のサイン)を出されるかもしれない。初球からいこうと思った。偶然、水曜日(24日)に逆打ちの練習をしていたんで」とニヤリ。ラミレス監督は「バントも考えられたけど、常識外の戦略でいこうと打たせた」と奇策がはまった。

 投手としては常識外れなほど打撃への意識が高い。月曜日に行われる投手練習でのフリー打撃では、右親指にはめる打撃補助具(プロヒッター)を握り柵越えを狙う。正確なグリップで打撃力向上を補うとともに、詰まったときの衝撃から手を守る。本職の投球のためでもある。「先頭を出さないように投げた結果」と6回まで無安打投球。「意識していないと言えばウソだけど、それより試合に勝ちたかった」と7回3安打1失点と仕事を果たした。

 今季阪神4カードすべてで登板し、4度目の正直で勝利。「試合を作ることに専念した」と、虎たたきの殊勲者は、投打でヒーローになった。【栗田成芳】