逆境に立ち向かい、甲子園を目指す高校球児のために-。楽天のドラフト6位・柿沢貴裕外野手(18=神村学園)が22日、宮城・石巻工に初任給の50万円を全額寄付することを明かした。柿沢は昨年のセンバツで21世紀枠の同校と対戦。試合は9-5で勝ったが、東日本大震災の苦難にも負けずに奮闘するナインに心を打たれ、恩返しのためにも寄付する決意を固めた。(金額は推定)

 東日本大震災の復興へ、柿沢が自ら動いた。今月、石巻工に初任給の50万円を全額寄付することを決めた。球団と契約を済ませた昨年11月から考えていたことで、家族だんらんの中で両親に意思を伝えた。「親にも相談して、東北の球団に行くということで何かできないかと。気持ちだけですけどね」と思いを明かした。初任給を両親や母校のために使う選手が多い中、他校への恩返しを決心した。

 きっかけがあった。昨年3月22日。21世紀枠の石巻工と1回戦で対戦した。当時の様子を「観衆がすごかったです。石巻工の応援がすごくて、アウェーでした」としみじみ振り返った。試合は柿沢の好救援もあり、9-5で勝利。それでも、石巻工の諦めない精神力に心を打たれ、試合後は全員で握手を交わし、お互いをたたえた。そして、石巻工の思いの分まで頂点を目指したが、ベスト8で敗退。夢はかなわなかった。

 東北と九州、遠く離れても、その時生まれた絆は固かった。今年3月22日には、「甲子園に見に来られなかった方もいる」(石巻工関係者)との計らいで、リニューアルされた石巻市民球場で神村学園と再戦することが決まった。昨年と同日の対戦に、柿沢は「こっちでまた野球をやれるということで、それも含めて良かった。本当に僕は気持ちだけですけど」と照れくさそうに話した。

 石巻工と神村学園のつながり。「今後も機会があれば何かやっていきたい」と継続的に支援を考えていくことも明かした。初任給は1月下旬に振り込まれる予定で、柿沢の家族から学校側へ送られる。今季年俸600万円(推定)のため12分割すると50万円になるが、これが0円になる。「2月にキャンプにも行くし、使うことないです」とあどけなく笑った。

 東北で活躍する姿を見せることが恩返しにもなる。ドラフト6位だが、打撃センスを高く評価する声は多い。「僕は試合に出ることが前提なので」と、1日も早くKスタ宮城の打席に立つことを目標とする。石巻工ナインにプロ野球選手・柿沢を見せる-。その思いはきっと実現するはずだ。【斎藤庸裕】

 ◆柿沢貴裕(かきざわ・たかひろ)1994年(平6)7月30日生まれ。小学校までは東京・葛飾で過ごす。中学から母親の実家がある鹿児島に移り、中学から神村学園。高校2年夏から3季連続でエースとして甲子園出場。3年夏は4番も務めるなど、高校通算23本塁打の打撃力を買われ、野手としてドラフト指名を受けた。179センチ、80キロ。右投げ左打ち。

 ◆神村学園対石巻工VTR

 第84回選抜高校野球大会(12年3月22日)1回戦。序盤から神村学園が4点を奪い有利に進めるも、4回に石巻工が5長短打を集め一挙5得点で逆転。しかし5回、神村学園は2死満塁から押し出し四球で同点とし、ミスに乗じてさらに4点を奪った。6回から救援した柿沢は4回で6奪三振無失点。神村学園が9-5で勝利し、石巻工は初戦で敗退した。