WBA世界バンタム級2位井上尚弥(25=大橋)が同級王者ジェイミー・マクドネル(32=英国)を1回1分12秒のTKOで破り、フライ、スーパーフライ級に続き3階級制覇を実現した。

 井上はマクドネルに左フックを打ち込んでダウンを奪うと、そこから一気の連打でロープ際に積めてめった打ち。棒立ちになったマクドネルをレフェリーが止めた。

 やまない大歓声。井上は「怪物ぶりがアピールできたと思います。当たれば倒れる感触があった。試合で出てほっとしています」と満面の笑みで振り返った。

 前日24日午後2時すぎの計量からは井上が6キロ増に対し、マクドネルは実に12キロも大幅に体重を戻してきた。

 国内最速16戦目での3階級王者誕生となった。このカード決定を誰よりも喜んだのは、3階級制覇を目指す井上本人だった。ボクシング人気が高騰する英国から来日する王者マクドネルへのチャレンジ。同級2位の挑戦者として臨む井上は「ヒリヒリできる、ワクワクする試合」「やりがいがある試合」と気持ちを高揚させた。

 前哨戦を挟むことなく、転向1試合目での王座挑戦。3年前、亀田和毅(協栄)と2度対戦し、ともに判定勝ちしたマクドネルの身長は175・5センチ。実に11・4センチの身長差があるため、長身対策が不可欠だった。3月には身長175センチのWBA世界フェザー級3位チャン・ウー(中国)、4月には身長178センチで10戦全勝となるフェザー級選手のラザ・ハムザ(英国)を招き、実に2年ぶりとなる8ラウンドのスパーリングも消化。マクドネルと対峙した時のイメージを膨らませた。

 その身長差を考えれば、ボディーが狙いやすい。その反面、顔面が届きにくいことが想定されるが、王者の試合動画をチェックしてきた父の真吾トレーナーは「マクドネル選手は前かがみに構える。試合時には、それほどの身長差を感じないと思います」と分析する。5月にはメキシコ人練習パートナー2人を招き、過去の世界戦で最多となる海外勢6選手とのスパーリングを5月10日に打ち上げた井上は「調整はうまくいっています」との手応えを口にした。

 5月に入り、英国発でバンタム級最強決定トーナメントのニュースが届いた。欧州中心で昨秋から展開されてきたワールド・ボクシング・スーパー・シリーズ(WBSS)のシーズン2としてバンタム級が開催されることが発表。WBAスーパー王者ライアン・バーネット(英国)、WBO王者ゾラニ・テテ(南アフリカ)、IBF王者エマヌエル・ロドリゲス(プエルトリコ)の出場が決定した。さらに主催者側からは「イノウエがマクドネルに勝った場合、WBSSに参戦することで合意している」とも明かされた。

 スーパーフライ級では、強すぎるがゆえに他団体王者から対戦を回避され、熱望した統一戦はかなわなかった。WBSSに参戦すれば、自然と団体統一戦が実現可能となる。井上は「まず結果を出したい。トーナメント(WBSS)の話もあるので」と前向きだ。団体統一戦という夢、ファンの期待-。それは、すべてマクドネルからベルトを奪った時から始まるストーリーとなる。

 辰吉丈一郎、長谷川穂積、山中慎介といった同級のレジェンドたちの名を挙げ「小さい頃から見てきたバンタム級。そのステージに立てるのはうれしい」と井上。具志堅用高が保持する日本記録の13度防衛を目指すことも宣言する「モンスター」は、バンタム級で日本ボクシング界の新たな歴史を刻んだ。