[ 2014年6月8日7時54分

 紙面から ]決勝ゴールを決めた大久保は試合後にフェンスのすき間から伸びた息子たちの手にキス<国際親善試合:日本4-3ザンビア>◇6日(日本時間7日)◇米フロリダ州タンパ

 日本代表のFW大久保嘉人(31=川崎F)が、劇的な決勝点を決めた。W杯前最後の親善試合ザンビア戦に後半から出場。3-3と追いつかれた直後の終了間際に、MF青山からの約50メートルの縦パスを正確にトラップして豪快な左足ゴールへとつなげた。日本(FIFAランク46位)はザンビア(同76位)との乱打戦を制し、一夜明けた7日に決戦の地ブラジルに向けて出発した。14日(日本時間15日)の1次リーグC組初戦のコートジボワール戦へと向かう。

 本能で前へ走った。同点に追いつかれた直後の後半ロスタイム。大久保はキックオフのボールを本田に預けると、全速でゴール前に駆け上がった。すぐに青山からロングパスが飛んでくる。DF3人に囲まれながら、右つま先で絶妙トラップ。腰に当てたボールを、左足で蹴りこんだ。興奮する仲間と喜びを分かち合いながら、メーンスタンドにいた莉瑛夫人と3人の子供たちを必死に探した。

 「(パスを)出してくれるかな~と思いながら走った。よう出してくれたよね。完璧や。(DFが)いっぱいおったから、もうドーンと打った。(得点後)すぐに家族と話をしたかった。子供は(状況を)よく分かってないんじゃない?」

 終了の笛が響くと、真っ先にスタンドへ向かった。代表から遠ざかっていたこの4年間、故障の時も、オーバートレーニング症候群で精神的にボロボロになった時も、支えてくれたのは家族だった。長男碧人(あいと)君(8)と次男緑二(りょくじ)君(4)、三男橙利(とうり)君(2)の3人が、大喜びでヒーローになったパパの元にやって来た。

 汗まみれのユニホームを脱ぎ、子供たちに手渡した。碧人君は「パパのユニホーム汗臭いよ~」と笑い、緑二君は「パパはカッコイイ」と誇らしげだ。莉瑛夫人は「W杯までゴールは取っておいてくれたら良かったのに。でも、決めたら乗るタイプ。本当に良かった。いつもは子供みたいな人なんですよ」と喜んだ。

 後半からワントップで出場し、途中で右MFに移った。国際Aマッチの得点は08年11月13日の親善試合シリア戦以来で、これが代表通算6点目。過去5点はいずれも国内での試合で、海外では初得点になった。ジーコ体制の03年に初めて代表に選出され、得点の取れない苦しい時期もあった。

 「昔のことはどうでもいいよ。今の俺は(Jリーグで)点を取ってきて、やっとここに選ばれた。昔は先発にこだわりがあったけど、今は監督に与えられた時間で勝負している。出ていなかったらみんなをどうサポートするか、出たらどう動こうかを考えている」

 決戦の地に入って翌9日には、32歳の誕生日を迎える。年を重ねることでプレーには円熟味が増し、性格はとげとげしさが消えた。ブラジルには行かず日本に戻る長男からは「ブラジルで活躍してね。5点入れてね」と記された手書きのメッセージをもらった。愛する家族のため、そして日本のため-。大久保家のヒーローは、W杯で日本のヒーローになる。【益子浩一】