<歌詞>ぜ~ったいにありえない! そう思ってたのに何だか私 あなたのことが好きみたいハート

 19日夜にAKB48を卒業した小嶋陽菜の代表曲「ハート型ウイルス」の間奏中のセリフだが、せんえつながら、そっくりそのまま、私の小嶋への心境そのものだ。さらに、同曲の歌詞はこうだ。

 <歌詞>初めはピンとこなかった ちょっと面倒な気がしてた (中略) いい人だとは分かったけど まるでタイプじゃなかったからよ 仲良くならないつもりだったのに

 約10年前にAKB48を取材し始めたころ。私の中の小嶋は、この歌詞のようなメンバーだった。のちに多くの人気者を輩出する1期生の中でも、最初からあか抜けていて、1番の美少女だった。最も一般受けする整ったルックスだからこそ、少々あまのじゃくな私は、あまり興味が持てなかった。

 今でもはっきり覚えている。小嶋が第6位だった第1回AKB48選抜総選挙を取材した時だ。「こじはるは、まるでジャンボ鶴田だな。ルックスは1番。すなわちアイドルとしての能力はナンバーワンなのに、いつまでたっても本気を出さない。永遠の未完の大器だな」と、知人と笑いながら眺めていた。

 もう1つ、インタビューをしなかった理由があった。秋元康は手紙に「僕が個性の強い初期メンバーに手を焼いている時も、君は手が掛からなかった」とつづっていた。その通りで、ほかのメンバーがマスコミにも個性をぐいぐいとアピールしてくる中で、小嶋はいつも涼しい顔をしていた。

 しかも、女子高生のようにゆるく語尾を伸ばして「え~っとぉ~」と話す口調と、予想外の珍回答ばかりのために、イメージは天然ボケ。AKB48は、高校野球のような、努力と汗と涙のグループになっただけに「こじはるとだけは、とてもマジメな話はできないかな」と、勝手に色眼鏡で見てしまっていた。つかみどころがなく、取材をしても収穫の少ないタイプだと思ってしまっていた。

 本当に大きな勘違いだった。ダイヤモンドの原石を、完全に見逃していた。いや、こじはるファンは、その魅力にとっくに気づいていたのだから、すでに原石ではなく、ダイヤだった。小嶋の魅力に最初から気づけなかった事実は、私の19年の記者人生でも、個人的には指折りの失態。こんな有能な人を見抜けなかったなんて、つくづく、自分のけい眼のなさを恥ずばかりだ。この場を借りて、小嶋に心から謝罪したい。

 ただ、彼女がほかの初期メンバー以上にアイドル活動を続けてくれたおかげで、遅ればせながらその魅力に気づくことができて、何とかギリギリ間に合った。小嶋が卒業を思いとどまった14年ごろからは、ほぼ毎月のようにAKB新聞の取材を受けてもらい続けた。おかげで、彼女のこだわりや考え方、後輩やグループに残したいメッセージなどを、もう余すところなく報じさせてもらえた。ただただ、感謝でいっぱいだ。

 <歌詞>ハート型ウイルスに やられてしまったみたい どんな注射も効かないわ あなたのことばかり 考えてしまうの 何も手につかないくらい

 まさにこの1、2年は、AKB新聞の内容を考えるたびに、彼女の企画、彼女に登場してもらう対談やインタビューばかりに頼っていた。

 今夜の卒業を限りに、その思いを断ち切らなければ。早めに頭を切り替えねばならないのだが、存在が大きすぎたために、まだしばらくは、こじはるロスからは、抜け出せそうにない。つくづく、こじはるはいい女である。