<本日のごのへのごろく 「癒される 好きだな、を生む 耳情報」>

 「人は見た目が100%」なんてドラマもありましたが、大事なのは見た目だけでしょうか? 目から得る“視覚情報”は確かに印象に残りますが、見た目のイメージはだんだん変わりますよね。「はじめは恐そうだと思ったけれど優しかった」とか「キレイな人だけど話してみたらキツい感じだった」などなど。それは、耳から得る“聴覚情報”が大きく影響しています。連載『ごのへのごろく』トーク編第35回、今回は「聴覚は脳に大きく作用する」です。

大阪と熊本で開催されたAAA・與真司郎さんトークショーで司会を務めた五戸美樹(2017年11月)
大阪と熊本で開催されたAAA・與真司郎さんトークショーで司会を務めた五戸美樹(2017年11月)

 ■視覚と聴覚の違いを考えよう■

 視覚は“選べる感覚”です。見たくないものには視線を送らなければいいし、目を閉じてしまえばいい。一方、聴覚は“選べない感覚”です。どんなに聞きたくなくても音がすれば耳に入ってしまいます。時計の秒針の音や、遠くの工事の音が気になってしまうこと、ありますよね。

 ■ガガガッ・ゴーッも避けられない■

 そして聴覚は、無意識に入ってくる情報が多い感覚です。カフェでコーヒーを飲んでいれば、自分がカップを持つ音と、ゴクリと飲む音だけでなく、店内のBGMや、周りの人の話し声、定員が注文を受けている声、コーヒーの機械の音、エアコンの音・・・同時に大量の音が耳に流れ込んできます。全ての音を意識して聞いているのではなく、耳には入ってきているけれど、聞き流している音が常に無数にあります。

落語家・桂枝太郎さん(中央)と、フリーアナウンサー・大河原あゆみさん(右)の結婚披露宴で司会を務めた五戸(2017年10月)
落語家・桂枝太郎さん(中央)と、フリーアナウンサー・大河原あゆみさん(右)の結婚披露宴で司会を務めた五戸(2017年10月)

 ■「好きだな」を生み出す本能感覚■

 さらに、聴覚は、本能と繋がっている感覚です。黒板に爪を立てる「キーッ」という音は、聞いた瞬間に「イヤだな」と思う人がほとんど。川のせせらぎを聞くと「癒されるなぁ」と思う方が多い。これは「好き・嫌い」という本能が、聴覚から得た情報で作り出されるということ。

 ここまでをまとめると、私たちは耳から、無意識の意識も含めて大量の情報が入り、その大量の音に対して本能的に「好き・嫌い」を感じている、ということ。

 ■脳の活性化は90%が音による■

 聴覚心理学と音声学の学者による研究報告で「脳の活性化は90%が音によってなされる」と発表されました。そのくらい音は脳への影響が大きいんです。

J-WAVE『GROOVE LINE』スタジオにて。毎週月曜から木曜の17時40分頃からクイズコーナーを担当しています(2017年10月から)
J-WAVE『GROOVE LINE』スタジオにて。毎週月曜から木曜の17時40分頃からクイズコーナーを担当しています(2017年10月から)

 ■脳に影響する音のひとつが「声」■

 声は音の一種ですから、声も脳の活性化に大きく関わるということ。声を聞くだけで「好き」あるいは「嫌い」と思うこと、ありますよね。声を発するだけで「好きだな」「良いな」「癒されるな」と思われれば、その人そのものが評価され、愛される存在になるものです。

 そして自分の声が「イヤだな」「嫌いだな」と思うのは辛いことです。「イヤだな」と思う声を聞き、自分の声を聞いてまた「イヤだな」と思ったら、ますます声が出しづらくなります。

 ■驚愕の「8割が自分の声が嫌い」■

 取材させていただいた声の専門家・山崎広子先生が行った意識調査によると、日本人は8割が自分の声が嫌いなのだそうです。海外ではこんな高い数字は出ないそうで、国民性を表していると言えます。

 ただ、悲観する必要はなく、誰でも素敵な声を出すことは可能です。

声優事務所「スチール・ウッド・ガーデン」でボイストレーニング講師を担当しました。一般の方に向けてはストアカでレッスンを開催。次回は11月29日(水)です。詳しくは五戸のブログをご覧下さい
声優事務所「スチール・ウッド・ガーデン」でボイストレーニング講師を担当しました。一般の方に向けてはストアカでレッスンを開催。次回は11月29日(水)です。詳しくは五戸のブログをご覧下さい

 (次回トーク編は第36回「本当の声=オーセンティックボイス」の予定です)

【五戸美樹】(日刊スポーツ・コム芸能コラム「第57回・元ニッポン放送アナウンサー五戸美樹のごのへのごろく」)

 【参考図書】山崎広子先生の著書『8割の人は自分の声が嫌い 心に届く声、伝わる声』(角川新書)、『人生を変える「声」の力』(NHK出版)。

 ◆山崎広子(やまざき・ひろこ)国立音楽大学卒業後、複数の大学で音声学と心理学を学ぶ。音が人間の心身に与える影響を、認知心理学、聴覚心理学の分野から研究。音声の分析は3万例以上におよぶ。また音楽・音声ジャーナリストとして音の現場を取材し、音楽誌や教材等への執筆多数。「音・人・心 研究所」創設理事。NHKラジオで講座を担当したほか、講演等で音と声の素晴らしさを伝え続けている。日本音楽知覚認知学会所属。