藤山直美(58)が初期の乳がんで加療に入った。そのため、3月と4月に予定した主演舞台「おもろい女」は公演中止となり、座長公演を予定した7月の東京・新橋演舞場「喜劇松竹名作公演」は休演する。

 藤山は健康には人一倍気を使っていた。父藤山寛美は244カ月の無休公演を行うなど、体を酷使した末、肝硬変と診断された2カ月後に、まだ60歳の若さで亡くなっている。10年前から乳がん検診を毎年1月に受けていた。

 今年も1月に検診を受け、2月上旬に初期の乳がんと判明した。しかし、藤山の乳がんと公演中止が発表されたのは2月17日と、判明してから10日以上が経過していた。実は「おもろい女」の稽古は20日から始まる予定だった。ぎりぎりの公演中止を決断した裏には、藤山の「おもろい女」の舞台に掛ける熱い思いがあった。

 「おもろい女」は上方漫才の伝説の人ミス・ワカナを主人公にした舞台で、78年に故森光子さんが初演し、「放浪記」とともに代表作だった。森さんが亡くなり、15年に藤山が舞台を継承し、演技は高い評価を受けた。その時は東京だけの公演で、今回は名古屋、そして地元でもある大阪の公演だけに、多くの観客が楽しみにしていた。

 それだけに、藤山も乳がんの判明から、公演中止を決断するまでに、葛藤があったようだ。初期だから、3・4月の公演を強行すると言う選択肢もあった。結局、早期発見、早期治療の鉄則から、公演を中止し、治療に専念することになった。藤山が出した「お客様にご覧いただけないことを何よりも大変心苦しく思っております」とのコメントからは、複雑な胸中がうかがえる。

 藤山は10月の舞台「ええから加減」での復帰を目指している。「ええから加減」は高畑淳子との共演で漫才コンビを演じ、各種いくつかの演劇賞を受賞した。今回は息子の不祥事で謹慎した高畑の復活舞台になるはずだったが、藤山が乳がんで入院生活を送り、その復帰舞台としてより注目が集まるだろう。ツッコミの高畑に、ボケの藤山の漫才は、プロも顔負けの面白さだった。今や、抜群の集客力を誇る女優だけに、元気になった藤山の舞台姿が待ち遠しい。【林尚之】