4月期の春ドラマが出そろった。主要ドラマの半分が警察もの、探偵ものという横並び。数が多い分、見ごたえにはバラつきがある印象だ。「勝手にドラマ評」30弾。今回も単なるドラマおたくの立場から、勝手な好みであれこれ言い、★をつけてみた(シリーズものは除く)。

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◆「貴族探偵」(フジテレビ系、月曜9時)相葉雅紀/武井咲

★★★

 自らは動かずに推理をする安楽椅子探偵の亜種。推理も発表もすべて使用人任せで、探偵を名乗る「御前様」が本当に何もしないトンデモな世界観が面白い。「山本、推理を聞かせてやれ」。要は「助さん格さん、やっておしまいなさい」の水戸黄門の世界だが、集めすぎた豪華キャストに脚本も演出も気を使いすぎて、主演へのフォーカスが雑。すべてお見通しだった鋭さが分かるラストシーンだけでは気配不足に感じる。物腰柔らかで手厳しい相葉君のキャラクターが魅力的なだけにもったいない。原作ファンは大絶賛だが、大多数の未読派を迷子にするのはどうかと思う。かっこいいエンディングなのに、ダサい言い訳テロップで台無し。

ドラマ「CRISIS」の試写会に登場の、左から野間口徹、田中哲司、小栗旬、西島秀俊、新木優子、長塚京三(撮影・瀬津真也)
ドラマ「CRISIS」の試写会に登場の、左から野間口徹、田中哲司、小栗旬、西島秀俊、新木優子、長塚京三(撮影・瀬津真也)

◆「CRISIS 公安機動捜査隊特捜班」(フジテレビ系、火曜9時)小栗旬/西島秀俊

★★★★★

 直木賞作家金城一紀×小栗旬の「BORDER」コンビ。小栗、西島秀俊らメンバー個々の戦闘力がすさまじい冒頭20分の超絶アクションに息止まる。列車から川にダイブなんて見たのビーバップ以来。軽妙な会話、スリルジャンキーなスピード感にあっという間の1時間。紅一点の存在感が自然で、男4人と女1人のガッチャマン編成に信頼が置ける。2話はずしんと重い少女買春の闇。1話とは違う隠密アクションの展開力もさすが。多忙な俳優が1年かけて武術鍛錬に取り組むほど魅力的な脚本と、カンテレ制作の準備力。国家の外道がからんだ汚れ仕事だけに、真実と現実の胸くそ悪さが圧倒的な余韻。走れて飛べる小栗旬がかっこいい。

「あなたのことはそれほど」の完成披露試写会に登壇した、左から鈴木伸之、波瑠、東出昌大、仲里依紗(2017年4月11日撮影)
「あなたのことはそれほど」の完成披露試写会に登壇した、左から鈴木伸之、波瑠、東出昌大、仲里依紗(2017年4月11日撮影)

◆「あなたのことはそれほど」(TBS系、火曜10時)波瑠/東出昌大/仲里依紗/鈴木伸之

★★★

 新婚OLが、初恋の人「有島くん」と再会してラブホへGO! 波瑠が「バカだなと思って見てほしい」とPRする通り、特に背徳感や後ろめたさもない浮かれカップルのダブル不倫が新鮮。秘密の温泉旅行で「ごめん、子供生まれたから帰るわ」「実は私も結婚してるの。ほら指輪」「なんだよかったー、わはは」。鈴木伸之のにやにやした「有島くん」が素晴らしい。嫉妬モンスターと化した夫、東出昌大のキモっぷりが早くも“冬彦さん”と話題に。テレビ史に残る佐野史郎の木馬シーンのようなインパクトを残せるかが今後のカギ。ネクラな仲里依紗が何話で爆発するか。困った4キャラのざわざわする不協和音ワールド。

日本テレビ系ドラマ「母になる」の出演者たち
日本テレビ系ドラマ「母になる」の出演者たち

◆「母になる」(日本テレビ系、水曜10時)沢尻エリカ/藤木直人

★★★★

 3歳の時に誘拐された息子が9年後発見された。奪った女をママと慕う息子とのきずなを、実の母親は取り戻せるのか。後回しでいい夫婦のなれそめが長すぎた1話はさておき、小池栄子の挑発的な手紙で急展開した2話で一気に引き込まれた。やはり演技力確かな沢尻エリカ。絶望の涙、うれし涙、悔し涙など、感情の描写をこつこつ積んで母親役に説得力あり。あれだけの屈辱の中、息子が生きていたことだけで前を向ける母の強さ。「産んだ私だけが誕生日を知っている」の1歩に泣けた。父親の慟哭や愛情が痛いほど伝わる藤木直人の涙は名場面。母性の押し売りとは一線を画す見ごたえで、母親以外の人も楽しめる。

テレビ朝日系連続ドラマ「緊急取調室」
テレビ朝日系連続ドラマ「緊急取調室」

◆「緊急取調室」(テレビ朝日系、木曜9時)天海祐希/田中哲司

★★★★

 取り調べ専門チームの活躍第2弾。男集団の女いびり、殉職した夫のいきさつなどのくだりは前回で終わっており、天海祐希をエースとするチームものとしてすっきり楽しめた。1話は容疑者役の三田佳子に尽きる。独居老人の孤独とプライドみなぎらせ、視聴者をも手玉に取る迫力。天海とのタイマン勝負に見ごたえがあった。1話は、実質敗北のスタート。人の心は一筋縄ではなく、この仕事の難しさを示して重みがあった。実力派俳優が分厚く、恐ろしく安心して見ていられる。密室の攻防戦ゆえ、今回も犯人役の力量次第で見ごたえが変わりそう。天海と同い年なので、でんでんの「おばはん」攻撃に今回も心がへし折れる。

人は見た目が100パーセント
人は見た目が100パーセント

◆「人は見た目が100パーセント」(フジテレビ系、木曜10時)桐谷美玲/水川あさみ/ブルゾンちえみ

★★★

 異動により、ファッション&ビューティーの最前線に放り込まれたおしゃれオンチ3人組の右往左往。1話でブルゾンちえみの女優力が覚醒、2話でコメディエンヌ水川あさみ発動。勝負の黒ワンピに「誰か死んだの!?」、クラッチバッグに「集金泥棒なの!?」。テンポよくゲラゲラ笑えるだけに、世界で最も美しい顔8位の桐谷美玲が非モテのブサイク系という無理設定が残念。木曜の夜に、猫背でおどおどしたヒロイン像はだるく感じる。おしゃれがヘタなだけの、優秀な研究員の実験精神ものとして元気よく見たかった。とりあえずブルゾンの表情豊かな演技力に夢中なので最終回まで見る。今期の助演女優賞。

TBS系ドラマ「リバース」の制作発表に出席した、左から藤原竜也、湊かなえ氏、戸田恵梨香
TBS系ドラマ「リバース」の制作発表に出席した、左から藤原竜也、湊かなえ氏、戸田恵梨香

◆「リバース」(TBS系、金曜10時)藤原竜也/戸田恵梨香

★★★★

 イヤミスの女王、湊かなえ原作ドラマ。10年前の雪山で起きた親友の事故死の真相。サスペンスなのに、藤原竜也にダサ面白さを発揮させる攻めた演出。サッカーが死ぬほどヘタな藤原竜也、にやにやパンを食べる藤原竜也、スキップできない藤原竜也。こんなダサまじめが「人殺し」と指弾されていく落差にドラマがあり、“日本一絶叫が似合う俳優”の多彩なアプローチに見入る。ドラマ独自の登場人物が、原作のイヤミス度を盛り上げていて、人生の決定的な1日を共有した玉森裕太、三浦貴大、市原隼人の「今」がきちんと悲しい。恋人役に戸田恵梨香、事故死した親友役に小池徹平を起用した制作陣のセンスの良さ。

◆「ボク、運命の人です。」(日本テレビ系、土曜10時)亀梨和也/山下智久/木村文乃

★★★

 30年後の地球を救うため、神から「運命の人」と結婚する使命を負わされた男のラブコメ。ダメな主人公(亀梨和也)と、C調な神(山下智久)の会話がやたらと面白い金子茂樹ワールド。「やあ」と現れるだけで笑える山ピーのコメディー力。「そこまで驚いてくれると出てきたかいがあるよね」「君が運命の力をしのぐほどだらしがないから助言に来てるわけ」「今度こそしっかりライバル押さえてちょうだいよって話」。私もこういうノリでガミガミと人生を指導されたい。説明ぜりふを全力で言うハライチ沢部がツボ。男性の滑稽さを描くのがうまい脚本家で、女性パートや家族シーンでテンポが落ちる印象。

TBS系ドラマ「小さな巨人」の完成披露試写会に登壇した、左から芳根京子、安田顕、長谷川博己、岡田将生、春風亭昇太、香川照之
TBS系ドラマ「小さな巨人」の完成披露試写会に登壇した、左から芳根京子、安田顕、長谷川博己、岡田将生、春風亭昇太、香川照之

◆「小さな巨人」(TBS系、日曜9時)長谷川博己/岡田将生/香川照之

★★★★★

 理不尽に所轄署に左遷されたエリート警察官が、キャリア復帰のため捜査一課長とバトル。権力闘争と管内の事件がうまくミックスされた骨太な作風。エリートの言動に嫌みがない長谷川博己の品格が効いていて、捜査員としての優秀さ、官僚カルチャーを知り尽くした立ち回り、手詰まりからの突破力が魅力的。もろに「半沢直樹」の警察版だが、本人に落ち度や欠点がきちんとあって親近感が沸く。香川照之がいつもの様式美で安定していて笑える。岡田将生がヒール役でびしっときまり、長谷川とにらみ合った時の長身ツーショットが素晴らしい。人物たちの名前のつけ方がうまく、細部までリアリティーに丁寧で信頼できる。

◆「櫻子さんの足下には死体が埋まっている」(フジテレビ系、日曜9時)観月ありさ/藤ケ谷太輔

★★

 骨研究のスペシャリストの事件推理。観月ありさの26年連続30回目の連ドラ主演作。心の声を多用するドラマは苦手なので、藤ケ谷君の心の声が延々と続く演出についていけなかった。変人の天才推理には凡人ワトソンの存在が欠かせないが、博物館職員役の藤ケ谷君が凡人というよりあたふたするだけのキャラでかわいそう。警察を無能に描きすぎて、逆にヒロインの視点のすごさが伝わらない空回り感もつらい。肝心の骨が、つやつやのおもちゃ風。「フランケンシュタインの恋」のガイコツと、圧倒的な美術の差。

◆「フランケンシュタインの恋」(日本テレビ系、日曜10時半)綾野剛/二階堂ふみ

★★

 死体から生み出され、120年間山奥で1人で暮らしてきた怪物が人間に恋をする。額縁は「シザーハンズ」、細かい設定は「妖怪人間ベム」。足して2で割らない、まんまな感じ。大好きなプロデューサーなので、やりたいテイストは分かるし、結末もきっと悲しいが、綾野剛演じるこの怪物に興味が持てなかった。体中からキノコが生えてくる「マタンゴ」な描写も個人的に無理。ヒーロー感を高めるためにああいう性犯罪をイージーに使うチョイスも悲しくなる。男3人がかりで襲われた直後に怪物に出くわし、無邪気に追いかけ回して「街に出よう」とリクルートするヒロインのメンタルの方が怪物っぽい。

【番外】

◆「やすらぎの郷」(テレビ朝日系、月~金曜昼12時半)石坂浩二/浅丘ルリ子ら

 倉本聡氏×テレ朝で昼ドラの挑戦。テレビに功績のあった制作者やスターだけが招かれる老人ホームの人間模様。東京ドーム30個分、海辺のおしゃれなコテージという浮世離れが万全で、石坂浩二を中心に、浅丘ルリ子、加賀まりこ、八千草薫、有馬稲子らすごい顔ぶれ。根っからスターな入居者たちの自意識の激突が、コミカルにもシリアスにもなり、全然やすらげない展開が笑える。随所にテレビ局批判、禁煙ブームは無視。説明ぜりふと分からない脚本の書き方、たばこの所作など昭和のスキルが満載。若きスターたちの白黒写真が美しくて泣ける。初回視聴率8・7%。ゴールデンでコケている作品より高くて恐れ入る。

【梅田恵子】(ニッカンスポーツ・コム/芸能記者コラム「梅ちゃんねる」)