第29回日刊スポーツ映画大賞・石原裕次郎賞(日刊スポーツ新聞社主催、石原プロモーション協賛)が5日、決定した。妻夫木聡(35)が「怒り」など4作品で個性的な役柄を演じ分けて助演男優賞に輝いた。授賞式は28日、東京・紀尾井町のホテルニューオータニで行われる。

 妻夫木にとって、「悪人」などで主演男優賞を受賞した6年前と一味違った感激だった。「あの時はお世話になった方たちへの感謝が強く、今回は純粋に自分がうれしい。めっちゃくちゃうれしいです」。

 今年は、「怒り」で同性愛の青年、「ミュージアム」で猟奇殺人鬼、「家族はつらいよ」で家族思いの青年、「殿、利息でござる!」で商人と、設定が全く違う4役を演じきった。「殿-」の撮影終了3日後に「怒り」のリハーサルが始まるため、「殿-」撮影中に「怒り」の役作りも始める忙しさだった。「1カ月前から『休みたい』と言っていたけど無理になって」。切り替えに追われた1年だった。

 心掛けたのは「役に寄り添うこと」だった。「役と一緒に手をつないで芝居をした結果、今がある」。「怒り」で恋人を演じた綾野剛(34)とは、役作りのため約2週間、実際にホテルで同せい生活を送った。「剛が半身浴しながら台本を読んでたから『何読んでるんだよ』と言いながら一緒に入ったり。付き合いたてのカップルみたいだった。過ごした日々は真実となって画面に現れた」。

 「ウォーターボーイズ」など数々の作品で主演を務めてきたが、苦しみもあった。「うれしい言葉でもあるけど『華があるから助演で使いづらい』と言われたことがあった。華があるってどういうこと? どうすればいいか考えた中での1年だったからこそ、(受賞は)うれしい」。

 役とともに歩み「華やかさ」を消す覚悟で臨んだ。主役の横で静かに咲くことに喜びを感じた年だった。【森本隆】

 ◆妻夫木聡(つまぶき・さとし)1980年(昭55)12月13日、福岡県生まれ。99年「GTO」で映画デビュー。01年初主演映画「ウォーターボーイズ」で日本アカデミー賞新人賞。10年「悪人」で日本アカデミー賞、ブルーリボン賞、日刊スポーツ映画大賞の主演男優賞。171センチ。血液型O。

 ◆怒り 夫婦惨殺事件から1年、千葉の漁師洋平(渡辺謙)娘愛子(宮崎あおい)の前に、素性知れずの田代(松山ケンイチ)が現れる。東京では同性愛の青年優馬(妻夫木聡)が住所不定の直人(綾野剛)と同せい。沖縄を含めた3都市で繰り広げられる人間ドラマと事件の結末は? 李相日監督。

 ◆ミュージアム 大雨に限って起こる連続猟奇殺人事件と、それを追う刑事の執念の捜査を描いた。捜査に明け暮れる刑事沢村(小栗旬)は被害者たちの間に浮かび上がる共通点の延長線上に、息子と家を出た妻(尾野真千子)がいることに気付く。大友啓史監督。

 <助演男優賞・選考経過> 「どの作品でも光っておりすばらしい」(宮崎晃氏)「助演の演技がいい。信頼感があるからこそ」(木下博通氏)など妻夫木を推す声が多い。「家族はつらいよ」などの作品も評価(佐々木基氏)。1回目で過半数を獲得。