弱視のカメラマン、雅哉を演じるにあたり、視覚に障害のある人たちに話を聞いて撮影に挑んだ。「彼ら、彼女らがいなかったら、僕は雅哉を生きられなかった」と言う永瀬は、レッドカーペットを一緒に歩きたいと考え、スタッフも各所と交渉した。しかし、盲導犬やホテルの受け入れ態勢の問題で断念せざるを得なかった。一緒には来られなかったが、報告を兼ね、カンヌ映画祭のシンボル、シュロの葉をあしらったキーホルダーをおみやげに買った。「手で触ってカンヌ映画祭だと分かるものを。ピンバッジもあったんですが、手で触った時危ないですから」と、配慮を欠かさない。

 デビュー作以来34年ぶりの共演となった藤竜也(75)の背中を見てきたように、後輩たちも永瀬の背中を見ているはずだ。「(海外に)出て行ける環境は、僕たちの時よりいっぱいある。歩みを止めず出向いていくことが大事」とエールを送る。同時に自分も奮い立たせる。「僕は『まだまだ×10』の役者。半歩でも1歩でも進みたい。もっと頑張らなきゃ。立ち止まったら何もできない」。

 昨年11月の撮了後、なかなか役から抜けきれなかったが、カンヌで再び役へと引き戻された。来月は別作品の撮影に入る。「どうすりゃいいですかね」と苦笑いしたが、やりきった充足感で晴れやかだった。

 ◆エキュメニカル審査員賞 キリスト教徒の映画製作者や評論家らによって1974年に創設されたエキュメニカル審査員賞は、人間の内面を豊かに描き、芸術的に優れた作品に贈られる。河瀬監督は受賞会見で「70周年という記念の年に、栄えある賞をいただけて、誇りに思います。公式上映の時に2300人の人たちと一体感を持てたことがうれしかった」とスピーチ、永瀬も「歴史あるすばらしい賞。感謝しています」と喜んだ。同賞は他の映画祭にも創設されており、最近では14年のモントリオール世界映画祭で、吉永小百合が初プロデュースした「ふしぎな岬の物語」が受賞した。