TBS系で放送された「まんが日本昔ばなし」で20年間にわたり声優を務め、演技派女優として活躍した市原悦子(いちはら・えつこ)さんが12日午後1時31分に心不全のため都内の病院で亡くなった。82歳。昨年12月に盲腸となり、正月5日から入院していた。平成最後の年に、多くの人に愛され、親しまれた女優がまた1人、この世を去った。通夜は17日午後6時、葬儀は18日午前11時から、いずれも東京・青山葬儀所で営まれる。

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市原さんは16年11月に自己免疫性脊髄炎のため都内の病院に入院。以降、入退院を繰り返し、芸能活動もセーブしていた。

昨年12月初めに体調不良を訴えて、検査を受けたところ、盲腸と診断された。その時に、うみが出るなどの症状があったが、投薬治療などで回復し、12月30日に退院し、いったん自宅に戻った。大みそか、正月は自宅で過ごしたが、5日の夜中に再び苦しみだし、別の病院に入院した。7日までは事務所社長とも会話もできたが、徐々に反応もなくなり、意識が混濁。12日昼すぎに親族、友人らにみとられて息を引き取った。

早大を経て、俳優座養成所に入所。同期には大山のぶ代、作家のジェームス三木氏、冨士真奈美がいた。57年に俳優座に入団し、新人時代から度胸のいい演技で、舞台、ドラマ、映画で活躍した。

71年に俳優座を退団した後は、TBS系アニメ「まんが日本昔ばなし」で75年から約20年にわたって声を担当した。その後も高視聴率だった2時間ドラマ「家政婦は見た!」(83~08年)など、演技派の女優として人気を得た。

私生活では、俳優座で同期だった演出家の塩見哲さんと61年に結婚した。子宝に恵まれなかったが、市原さんが主演し、塩見さんが演出する舞台公演を行うなど、おしどり夫婦として知られた。12年に市原さんがS状結腸腫瘍の手術を受けた時も、塩見さんは病床の妻を支えていたが、14年に塩見さんは肺炎で亡くなった。直後から、最愛の人を失った市原さんも心身ともに衰えを隠せなかった。

16年11月に脊髄炎のため病院に入院した時は、芸能活動を休業。17年2月にはリハビリ専門病院に転院し、退院した後は都内の自宅でリハビリに励んでいたが、回復しなかった。同11月にはナレーションの担当予定だったNHK大河「西郷どん」を降板。その後は西田敏行に代役を託した。

しかし、昨年3月にはNHK「おやすみ日本 眠いいね!」内で担当するコーナー「日本眠いい昔ばなし」の朗読を自宅で収録し、仕事復帰した。亀が人里へ助けを求めに行く「亀の使い」の話で、動物たちの声を6種類の声色で演じた。以降、月1回のペースで同番組の声だけの収録を自宅で行ってきた。

今月7日にも12日放送分を収録予定だったが、収録できず、7年前に収録したものを放送した。19日に初日を迎える観月ありさ主演の神奈川芸術劇場公演「悪魔と天使」にも声で出演を予定し、年明けに収録予定だった。最後の仕事は入院中の12月25日に病室で行った「日本眠いい昔ばなし」の収録。最後まで女優として仕事を貫き通した。

◆市原悦子(いちはら・えつこ)本名塩見悦子。1936年(昭11)1月24日、千葉県生まれ。俳優座養成所に入り、57年に俳優座入団。71年に退団した。75年に始まったアニメ「まんが日本昔ばなし」の声優として活躍。83年に始まったテレビ朝日系ドラマ「家政婦は見た!」は四半世紀以上も主演を務める代表作。90年に映画「黒い雨」の演技で日本アカデミー賞最優秀助演女優賞。舞台「トロイアの女」「近松心中物語」「雪やこんこん」、大河ドラマ「秀吉」などにも出演。夫は演出家の故・塩見哲さん。著書にエッセー集「ひとりごと」など。160センチ。