「幻の百合子本--」。

 東京都の小池百合子知事が都知事に就任してから1カ月あまりが経過した。今、都や永田町で、話題になっている小池氏の著作がある。08年に出版された「東京WOMEN大作戦」(小学館刊)だ。

 正式には、小池氏が自民党同僚議員の猪口邦子、佐藤ゆかり両氏と結成した政策ユニット「TPL(TOKYO PROJECTS of/by/for LADIES)」名義で出版したもの。TPLとは「女性の、女性による、女性のための東京プロジェクト」の意味。東京に縁のある女性議員3人が、女性の視点から東京に関する政策を語り合った内容だ。

 本の帯には、小泉純一郎元首相がコメントを寄せ、3人は当時「政界キャンディーズ」ともてはやされた。出版に先立ち、3人は08年5月、政策ユニット結成を発表。その会見を取材したことも覚えている。

 現在は「もう廃版になっているかもしれない」(小池氏)本のようだが、この中に、現在小池氏が直面する築地市場の豊洲新市場移転問題に関して記述があると、小池氏自身が、8月末の定例会見で言及した。それが、注目を浴びるきっかけだった。

 小池氏の言葉を受け、自宅の本棚から引っ張り出して、あらためてじっくり読んでみると、ちょっとびっくりした。市場移転の話だけでなく、環境政策や地方政治、東京都政のあり方など、現在の小池氏の姿を考える上でのヒントが、今読んでみれば、盛りだくさんだと感じる内容なのだ。

 市場移転の問題は、「日本の環境政策を東京がリードする」の項で触れられている。小池氏は当時、豊洲の土壌汚染を「一生活者として不安だ」とし、築地市場のアスベスト問題にも触れながら、「アスベストの処理をしながら建物を新築し、さらに営業も続けるのはかなり手間暇もかかるだろう」「それでも工法を工夫しながら、現在の場所で建物だけを立て直すのがいちばん妥当と思われる」と、指摘。築地での建て替えが「妥当」だとしていた。 その上で、豊洲については「東京五輪用のメディアセンターなど、食との関係の薄い分野で活用すればよい」と指摘していた。本書で「環境は必ず東京のメシの種になる」とも書いていた小池氏。本を出版する時点では、豊洲移転には慎重だったことがうかがえる。

 もちろん、当時は1議員としての発言。時は流れ、築地市場は、今年11月の豊洲移転を前提に、さまざまな準備が進み、そんな中、小池氏は都知事になった。そして、土壌汚染のモニタリング調査の最終結果が出る前の移転はおかしいと、移転推進派の反対を押し切る形で、今年11月に決まっていた移転時期の延期を決めた。

 ここにきて、豊洲市場内の施設で、土壌汚染対策として行われていたはずの盛り土作業が、都の独断で行われておらず、都が当初の計画とは違う「虚偽」の情報を提供していたことが発覚。10日に小池氏が緊急会見で、さらなる安全点検の必要性を表明する事態になった。

 このことで、来年5月ごろといわれていた移転時期が、さらに遅れる可能性も指摘されている。

 小池氏には、豊洲の安全性に対する「不信感」が、知事になる前から、もともとのベースにあることは確かだ。そこに、「都の不正確な情報問題」が、重なった。今後の推移はさらに、予断を許さなくなったのではないか。そんな気もしている。

 小池氏も10日の緊急会見で、新たな移転時期について「予断を持たず、いろいろなケースを考えたい」と、含みを残す発言をしていた。

 本での猪口、佐藤両氏との対談部分で、小池氏は「国会よりも地方政治を変えることが優先される」「地方の政治を変える、地方の政治の担い手を変える、これが最も重要な事項だ」とも触れている。

 実際に、東京という地方政治の担い手になった小池氏。8年前にぶち上げた「東京WOMEN大作戦」で記したアイデアに、これからの小池都政をひもとくヒントが隠されていることは確かだ。